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第5話 ペルソナの能力
「分かりました。明日、俺が店に来たらその間マスターは席を外してもらえますか?」
そう言って隼人は翌日、いつも通り閉店の一時間前にやってきた。カウンターに座ると何の躊躇もなくカミーラに聞いたんだ。
「店から盗った金は親に送ったのか?」
他の客もいて、店内はいつも通りジャズが流れていた。隼人はコーヒー頼んんだついでのようにカミーラ言った。
「何を?言ってイマスか」
咄嗟に出た言葉が片言になるくらいカミーラは動揺した。そこからは早かった。
「家族を大事にする気持ちは分かるけど、盗んだ金を仕送りにするのはどうかと思うよ」
「私、盗んでません」
「閉店間近になると随分緊張しながらレジ締めしてたね、心臓の音がこっちにまで聞こえて・・・・きそうだったよ」
カミーラの顔が徐々に青くなっていくのが分かる。
「私、何もしてません」
「カミーラ、俺に嘘は通用しない・・・・・・。何なら、電話で話していた内容を今伝えようか?いつも二階で話していたみたいだけど声が大きいから丸聞こえ・・・・なんだよな」
カミーラは反論することもなく俯き始めた。隼人が続ける。
「二階で盗ったレコードも転売してないんなら返しとけ。マスターに謝って明日には別の働き口を見つけるんだな」
「…………ゴ、ゴメンなさい……」
ようやく絞り出した声に、隼人は小さなため息を漏らした。
「ケ、ケイサツですか。警察をヨビますか?でもお金ないと家族コマります」
「さあ、どうかな。それは君の雇い主のマスターに、自分で交渉するんだ」
真っ黒な大きな瞳が泳いでいる。立ち竦んだまま相当焦っているようだ。
その瞳に涙がどんどん溢れていった。隼人は寂しそうに彼女に声をかけた。
「最後に、カミーラの淹れてくれたコーヒーが飲みたいな」
そういうと、小さく頷いたカミーラは鼻を啜り腕まくりされた袖で頬に伝う涙を拭った。
何度も、何度も溢れる涙を拭った。
そして最後のコーヒーを淹れると、隼人は名残惜しそうにゆっくりとコーヒーを味わって帰って行った。そして彼女は次の日に店を後にした。
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