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第6話 イタズラ
「隼人さんってどうしてそこまでやるんですか?仕事でもないのに」
ビールに口をつけながら隼人さんが僕を見下ろす。
目が合い僕はドキッとして思わず逸らしてしまった。
隼人さんは自分が喋るときに人とあまり目を合わせないからだ。
「仕事じゃないから気楽でいいんだよ」
「お金にもならないのに?」
「まあ、単純にあの店のマスターに世話になってるし、お前がジャズ弾いてるとこも見てみてえしな」
隼人さんがビールを片手に弱く笑う。
その顔を見ると僕は胃のあたりから締め付けられるように苦しくなる。
表情を歪ませないように気を張る。
右側の鎖骨あたりがむず痒い。
変な気持ちに対抗するように風呂場へと向かった。
「あれ、飲み物が無い」
アパートの狭い浴室にもすっかり慣れて僕は風呂上がりに冷蔵庫を開けると本当にこれでもかってくらい空っぽだった。
僕の買ってきたビールが二本とドアポケットにほぼ使われていないマヨネーズのみ。
隼人さんは料理をしない。
部屋の殺風景な様からしてそうだなと思っていたけど。
キッチンには手持ち鍋とフライパンとケトル。そして定位置のサボテンくらいしか見当たらない。
炊飯器すらないのだからもっぱら外食なのだろう。
生活力があるんだか無いんだか、時折心配になってしまう。
「ビールでも飲めば?」
パソコンとまだにらめっこしている隼人さんがぶっきら棒に僕に言う。
「えっ、僕まだ未成年ですけど」
「ドイツじゃ十四歳から飲めんじゃん、別に誰も見てねえよ」
「えっ、いいの?」
「は?別にいいよ。お前が買ってきたんだし」
「そう言うことじゃなくて」
こういう所はゆるいんだな。プシュッとビールを開けると僕はクビと音を鳴らして飲んだ。
苦くてビールが好きと感じたことはないけど乾いた喉にはちょうどいい。
正直ドイツより日本メーカーのビールの方が断然美味いと思う。
「お前、ピアニストとしてちょっとした有名人だったんだな」
隼人さんはパソコンを見つめたまま持っていたシャーペンを唇に押しあてていた。
どうやら癖らしい。
「げっ、隼人さん、もしかして何か見つけちゃった?」
僕は恐る恐るパソコンを覗き込んだ。
それは僕の去年のピアノリサイタル動画だった。
オールバックに髪をまとめた僕が緊張を隠すように必死にピアノを叩いている。
初めて数百人を動員したリサイタルは結局緊張で力が発揮できず僕のトラウマになった出来事だった。
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