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第9話 Christmas Eve Jazz session
チェット・ベイカーのBut not for me――。
マスターがにっこりと微笑みながら演奏はスタートされた。
その身体から噴火するような肺活量はトランペットの真の音を奏で、広い店内隅々まで響き渡らせた。
何とも力強い演奏。
リズムに乗った身体をくねらせ、お客さんに向けてウィンクする。
客席はマスターのパフォーマンスに応えるようには拍手で受け入れた。
店内と客席がマスターの纏うオーラのようなものに包まれた。
すると今度は僕にウィンクを投げる。
僕は笑顔でそれを受け取りアート・ブレイキーのMoanin'に繋ぐ。
序盤ピアノの単音が入りそれに合わせるようにドラム・ベース・トランペットが続いてくる。
四拍子に流れる軽快なテンポに客のつま先が思わずリズムを刻み始めてくる。
そして、それを裏切るように一気に倍のテンポに加速、僕がどんなスピードになってもこの四人は付いてきてくれる。
鍵盤を素早く叩く僕に、今度は拍手が漏れる。
僕の緊張はすっかり消え失せ、片足でリズムを取りながら演奏に合わせて身体がリズミカルに揺れてくる。
こうして天井を見上げて思わず目を閉じても勝手に十本の指がジャズを奏でてくれそうだ。
するとドラム、シンバルの不協和音で我に戻る。
隼人さんが演奏を無視して何か合図を送っているようだ。
僕は背伸びをして隼人さんをみる。
隼人さんが大きく口を動かし何か喋っている。
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