ドラムは目を閉じ、ピアノをソロにさせる。 耳をそばたて混じり合う曲と曲を理解すると薄ら笑みを浮かべ再びドラムを叩き始める。 二人を導く、するとサックスとベースは辻褄が合ったように演奏に戻る。 誰もが聞いたことがあるそのショパンは唯一僕が隼人さんに聞かせた幻想即興曲だった。 名曲がジャズとミックスされ力強くも繊細、そして少し風変わりなオリジナル曲となり、店内を包み込んだ。 客席が先ほどとは打って変わり微動だにせずステージを見ている。 ある客は手元のグラスに口をつけること忘れ、ある客は口の中に入った食事を咀嚼することも忘れるほど、この奇妙で魅力的な演奏に引き込まれていった。 何を弾いても、今なら誰でも魅了できる。 自然と余裕が生まれる。 白と黒の鍵盤がどこまでも続き、指に吸い付いてくる。 どの音階も僕のためにそこに並んでいてくれる。 脈打つ鼓動と込み上げる呼吸に興奮しながら、演奏以外の音が聞こえなくなるほどリラックスしているのがわかる。 　気づけば僕はどこまでも自由だった。