50 / 65

第9話 Christmas Eve Jazz session

 ジャズセッションはいつの間にかプロ集団の遊び場のように愉快になった。 僕はせっかくなので定番であるジョンレノンのクリスマスソングをジャズアレンジで披露すると大いに会場は盛り上がった。 マスターが演奏に戻ると旧友のリクエストに応えて歌声を披露した。 僕と隼人さんはマスターの重厚感漂うハスキーな歌声に大いに酔い痴れた。 その雰囲気と止まらないアンコールに演奏は続き、終いには客席にいた友人がマスターのマイクを取り上げて歌い出す始末だった。  そうしてクリスマスジャズセッションは大盛況で幕を閉じた。 僕は冷めない興奮を抑えきれず、客が引き、落ち着き始めた店内に隼人さんを探した。 隼人さんはさっきのスポットライトを浴びていた演奏者の影を微塵も感じさせずにまたエプロンをつけ、片づけに追われていた。 椅子を片手に二階へ向かう隼人さんを追いかける。 「隼人さん!」  僕は勢いのまま隼人さんに抱きついた。 多分こんな特別な夜じゃないと出来ないことだった。 「ありがとう隼人さん。すっごい気持ちよかった。Thank ……Thank you so much」  てっきり払いのけられると思った両腕に隼人さんはそっと手を回した。 「俺も、こんなに気持ちよかったの初めてだよ」  僕は予想外の返事にすかさず身体を離し、隼人さんの顔を見た。 隼人さんは穏やかに笑っている。 マスターの友達に外人が多かったせいか、もともとの僕に混じった血のせいか僕はたまらず隼人さんの口にキスをした。 「おい、何すんだよ」 「え、嬉しかったから」 「いきなり外人ヅラすんじゃねぇ!この童貞が!」  すっかりいつもの隼人さんに戻り僕は笑ってしまった。 「僕、童貞だけど処女じゃないから」  冗談でそういうと、隼人さんは腕を振り払い仕事に戻ってしまった。 「多衣良」  入れ替わりに一階からマスターの声が響いた。 下へ向かうと父さんとサラが帰り支度をしている。 「最後のお客様だ。お見送りを頼むよ」  そしてウィンクが飛ぶ。 僕は鼻息荒く、深呼吸した。

ともだちにシェアしよう!