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第9話 Christmas Eve Jazz session

 店の外に出ると、風も無く薄い雲から、舞うような雪がチラついていた。 小さな粉雪が、濡れた車道に落ちては消えた。 なんとかホワイトクリスマスになったようで、いつもより街灯の多い街の暖色につられて心まで暖かくなった。 最寄の駅へ二人を見送ろうと路地を抜ける。 「いっけない、お店に手袋を置いてきちゃったわ。義兄さん先に多衣良と駅に向かっていて下さい。すぐに追いかけます」  と絵に描いたような気を使い、店へと戻っていく。 残された男二人には寒空のホワイトクリスマスにどうにも気まずい雰囲気が流れるのだった。 空を見上げながら白い息を吐くと父さんが先に口を開く。 「多衣良のピアノを聞くなんて、何年振りだろうな」 ゆっくりと歩く父さんの横に並ぶよう、僕は歩幅を合わせる。 「いつも家で聞かされてるじゃん」 「練習とは全く違うよ。多衣良のピアノは年々、母さんに似てくるな」 「だといいけど」  十二月の空気が僕らの吐く言葉に白い靄を漂わせては淡く、消える。 昨日とはまるで違い、母親がいた頃の僕らを思い出していた。 「父さん、僕ピアノ続けるよ」  溶けた雪で濡れる路面をクリスマスのイルミネーションが反射する。 駅が近くなるにつれ、人通りが多くなってきた。

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