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第10話 告白
夜の十一時五十分、隼人さんのアパートは電気が消えている。
今日が終わったら、僕はこのアパートに来る理由がなくなる。
ジャズセッションが終わったら、ずっと伝えようと思っていた。
隼人さんはそれに気付いたのかマスターが誘う打ち上げを早々に切り上げ、逃げるように帰ってしまった。
僕は迷いに迷って今、隼人さんのアパートの前に立っている。
インターフォンを鳴らしても返事はない。
いないのか、またあの大音量のイヤフォンを聴きながら寝てしまっているのか。
出来ることなら僕が隼人さんの耳をそっと塞いでやりたい。
風もなくそれほど寒くはないが、足元には先ほど降っていた雪がうっすら地面に積もっていた。
空はすっかり晴れ、瞬く星空が雪を照らし、いつもより夜を明るく魅せた。
「隼人さん、いないんですか?」
扉越しに僕は言う。部屋からは物音一つしない。
「隼人さん、チケット、ありがとうございました。父さんともちゃんと話せました。僕いっぱい勉強して、これからもピアノ続けていこうと思います」
いない部屋に語りかけるように僕は続けた。訳も分からず声が震えてくる。
「隼人さんのおかげだと思っています。だから、お礼を言いたくて」
それでも僕には妙な自信があった。
どうしても隼人さんは扉越しにいるような気がしてならなかった。
「隼人さん……」
もしいないふりをしているなら、それが返事だ。
「隼人さん……」
いないかもしれないし、いるかもしれない。僕の鼓動がドクドクと脈打つのがわかる。
それが次第に膨れ上がり、速度が増していている。
寒さも手伝って唇が震える。
小さなため息をつくと白い息が僕を包んでは薄くなって消えた。
僕は息を飲んだ。
「隼人さん…………僕があなたの側にいてはダメですか?」
部屋はなんの動きも気配も感じられない。ただの闇のままだった。僕は額をドアに押し当てた。
「僕が一緒にいたら……うるさいですか……怖いですか」
扉は変わらず沈黙でしかない。
「隼人さん……できれば僕は、あなたの側でピアノを弾いていたい……」
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