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第10話 告白

もしも自分がどんな音も聞き分け、些細な音も聞きこぼさない最強の能力を持っていたら、音楽家として最大限に生かすことができただろう。 そして僕にピアノがなかったらと思うとゾッとした。 窃盗、盗聴、ストーカー、情報流出、工夫次第で法を犯すことが容易だと悟った。 隼人さんがそうせずにじっと孤独に耐えているのは隼人さんの家族が彼を愛して強く育ててくれたからだと思う。 隼人さんはそれを痛いほど理解している。 どれくらい経っただろう。 五分、十分ーー。 いや、正味二、三分だろうか。 鼓動が少しだけ平常に戻り、余韻を残すように全身が小さく震えていた。 僕は扉が開く期待を胸に息を飲んで耳を済まし、目を閉じた。 しかしいつまで経っても反応はなくそれは固く閉ざされたままだった。 つけた額が冷たくなり、軽く頭痛がし始める。 僕は額を離し、「ダメか」と小さなため息を漏らした。 留守なのか、居留守なのかを尻ポケットにしまっているスマホで確かめないのは僕の勇気が足りないのと、留守かもしれないという期待をどうしても捨てきれないからだ。 これが、最後かもしれないのに。

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