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第10話 告白
「いい加減カーテンでも買うか」
シャワーを浴び半裸状態で窓の外を見つめる隼人さんが言った。
「確かに。アパートの二階とはいえ、丸見えですしね」
僕は危うくうたた寝しそうな瞼をこすりながら隼人さんの声に耳を傾けた。
そんな僕の頭をくしゃっと撫でてベッドの横へ座った。
「多衣良、向かってきてくれてありがとうな」
「えっ?」
また隼人さんがか弱く笑う。
ただ僕が隼人さんを好きになっただけだ。それを隼人さんが受け入れてくれた。
部屋の扉の前で勇気を出して良かった。
「俺はこの耳のせいですっかり憶病者になっちまったから。なるべく人とは関わらないように生きていくつもりだった。だからさっき、居留守使ってこれで終わらせるつもりだった。でも出来なかった」
「隼人さん」
真面目な隼人さんの表情に僕は泣きそうになった。僕が思うより隼人さんはずっと素直な人なのかもしれない。
「今度は、俺がお前を追いかけるわ」
「へっ?」
「ドイツ、行くんだろ」
「まあ、」
「遠距離は金かかるしなぁ。転職でもするかな」
「ちょ、なんの話ですか?」
「だからお前がドイツでピアノ続けるって話だろ」
「えっ、違いますよ!今度の正月休暇でドイツにいる母に会いに行くってことです。父とも話して、僕は日本の音大に進学します」
「はぁ?」
隼人さんの顔が大きく歪んだ。
「ぶっ、あははは。隼人さんもしかして勘違いして部屋に入れたんですか?」
おかしくて、嬉しくて僕はベッドの上で大笑いした。
「間違えた……。俺の一生の恥だ」
頭をかきながら困ったように隼人さんが笑った。
遠距離を覚悟して僕を受け入れてくれたことがどうしようもなく嬉しくてたまらなかった。
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