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第68話
日の入りの近い町は、どこか妖しい雰囲気を醸している。
無事城下へとたどり着いた二人は、何をするでもなくふらついていた。提案したのは伊織で、どのように道が走りどこに逃げ場があるのかを竜巳に把握させるためであった。狭いといえど、長屋までの方面まで歩き回れば時間がかかる。竜巳にとっては二度目の城下である。
薄暗い道に人はまばらで、薄い灯りに照らされた影が大きく伸びていた。
「知ってるか竜巳、この辺りの宿はどこもいい女をあてがってくれるので名が知れてて――」
「知るかよ、嫁さんが怒るぞ。そんなことより腹が減った」
すっぱりと切り捨てると、これだから餓鬼は、と伊織はひとりごちた。
「確かにまあ飯の時間だ。……お、蕎麦屋が開いてるぞ、入るか!」
「あんた酒が飲みたいだけだろ」
蕎麦と酒の取り合わせが上手い、と山賊の頃に聞いたことがある。竜巳は酒が好きではなかったが、仕方なく伊織に続いた。
「やってるか?」
がらりと引き戸を開けて、意気揚々と進む伊織に続く。
二人で座敷の一角を陣取った。伊織はやはり酒を一杯とあてを適当に、竜巳はおとなしく蕎麦きりを頼んだ。
「あんた、本当に酒が好きなんだな」
「あ? いや何を言ってるんだ、輝夜ほどじゃあないぜ?」
「輝夜? あいつが飲んでるところなんて見たことないぞ」
「あ? そうか、お前が来てからやめたのか。仕事の無い日には、朝っぱらから煽ってるのが常よ」
「そんなに……」
「ま、あいつは酔ってようが強いってんで問題はなかったんだけどな」
話ながらも運ばれてきた銚子から酒を注ぎ、くいっと煽る。たまらない、といったふうに首を横に振った伊織を、竜巳はめでたい男だなあとぼんやり眺めていた。
その時だった。
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