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第77話
「輝夜は牢にいる。本来はまだ猶予があるはずだったが、昼間、あいつもここを抜け出そうとしてな、処刑は今夜に決まった。ひどい有様だが、まだ生きているはずだ」
「……今夜⁉ どうして……!」
「お嬢ちゃんと同じさ、会いたかったんだ、お前に。あいつはもうじき、毒でも飲まされて死ぬだろうさ」
「毒……⁉」
「きつい拷問かも分からんな。俺はここの見張り役だ。処刑の命を受けていないもんで、そこんところは詳しくは知らん。ただ昼間、あの鬼を妬むやつらに痛めつけられているのを見た」
風早はそういうと静かに首を横に振った。竜巳は風早に詰め寄る。
「頼む、輝夜がどこにいるかだけ教えてくれ。会いたいんだ」
「はあ?」
「俺、あいつに一言も礼を言わずに別れたんだ。そんなのが今生の別れなんて嫌だ」
「馬鹿言え、今お嬢ちゃんを行かせたら俺があいつに呪い殺される」
「連れて行ってくれないなら、俺があんたを殺す」
きっ、と睨み付けると、風早は目を丸くして困ったように頬を掻いた。
「本当に同じ顔をするんだな。分かった、ほんの少しだけだ。俺は案内したらすぐ戻るぞ。逃がそうにも、お嬢ちゃんに何ができるってわけでもねえだろうしなあ」
「分かった、ありがとう」
嘆息した風早は嘆息して頷くと、着いて来い、と竜巳を手招いた。
「なあ、あんたは仲間が殺されるのに悲しくないのか」
「悲しいさ。悲しいが、どうしようもない。あいつが犯した罪だ。もし恨むとするなら、あいつ自身か――あいつをそうさせたお前だよ」
竜巳は無言だった。遠くでゆらめく灯が方々に散っていく。
風早は竜巳を一瞥して頷くと、雪の上を静かに走り出した。
辺りは静まり返っている。微々たる光が民家から漏れているが、皆が皆息をひそめているかのように人の気配がしない。雪を踏みしめる音が、再び雪の中に吸い込まれていった。
いくつかの家を足早に通り過ぎると、粗末な小屋にたどり着いた。まるで米蔵のように小さな建物に近づくと、微かに血の匂いが香った。
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