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第80話

 慌てて背後を振り返れば、松明を手にした男が三人、戸口に立って二人を見下ろしていた。大柄な男が一人、狐目の男が一人、小太りの男が一人だ。それぞれ手に大ぶりの刃物を握りしめている。刀というよりも、それは鉈や包丁に似ていた。まるで山賊のようだ、と竜巳は思った。  小太りの男が松明をこちらに向け、二人は柔らかな光に照らし出された。 「っ、違う、こいつは関係ない!」  髪を振り乱して輝夜が叫ぶ。同時に背後から伸びてきた手が、竜巳を羽交い絞めにした。 「や、めろ!」  狐目の男が竜巳の顎を持ち上げ、推し量るようにじろじろと凝視してくる。 「こいつがくだんの小僧か。生意気な顔をしているが、この傷も悪くない」 「ほお、本当に鬼丸と同じ赤目だな」  そう笑った狐目の男が、竜巳の瞼をべろりと舐めた。不快感に思わず顔をしかめても尚、四方から声が降ってくる。 「それにしても、よくここが分かったものだ。兄弟愛というやつか? なあ鬼丸よ、ふはは」 「く、そ……!」  輝夜が縄から抜け出そうともがいた。しかし柱はびくともせず、痩せ衰えた男は身体を前後に揺さぶるにとどまった。 「そいつを離せ! もう俺とは関係ない、そいつが勝手にやって来たのだ!」 「その割には随分と必死だな、鬼丸。――そうだ、お前の前で可愛がってやろうか」  狐目の男のねっとりとした視線が竜巳に降り注ぐ。思わず眉を顰めると同時に、輝夜が「やめろ!」と激高する。 「そいつは関係ないと言っているだろう……!」 「ならば俺が迷い込んできた人間をどうしようと勝手だ。しかも、里へ通じる道も知れてしまっていることだしな」  にやり、と笑った狐目の男が、そろり、と竜巳の首筋を撫でる。 「っ、離せ……!」 「はは、なかなか初心な反応をするな」 「おい、本来の目的を忘れるな。鬼丸の首を落とすのが先だろう」  竜巳がびくりと身を竦めた。男たちが気に留める様子はない。 「そうだな――いいことを思いついた。この小僧を手籠めにしながら首を落とすというのはどうだろうか。いい地獄を見せられる」  輝夜が悔し気に歯噛みするのが見えた。

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