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第25話

「――なにすっ、うわ!」 家に着くと、輝夜は突如、竜巳を板の間の上に投げ飛ばした。顔面から床に突撃し、全身に鈍い痛みが走る。竜巳がもんどりうっていると、輝夜は憮然とした表情で普段通りに腰を落ち着けた。木をくべて燻っていた囲炉裏の火をおこし、竜巳に目を遣ることなく煙管を取り出すすと、煙草を入れる。囲炉裏の火を煙管に移してから、輝夜は煙をくゆらせた。  そして一服して深く息を吐き出してから、ぎろり、と蹲(うずくま)ったままの竜巳を睨んだ。 「……どうしてお前がそれを持っている」  竜巳はすくみ上ると、慌てて居住まいを正して輝夜に向き直った。様子を伺いながら、おおずおずと口を開く。 「……ごめん。俺、ここが怖くなって逃げようとして、金も何も持ってないことに気づいて、そこの箪笥を漁って」 「まるでこそ泥だな」 「う……ごめん。……で、そしたらこの布が出てきて……」 「返せ」  輝夜が険しく言い放った。竜巳は俯いてぎゅうとぼろ布を握りしめる。返す前に尋ねたいのだが、上手く言葉が出てこない。はぐらかされたら、ごまかされたらと思うと、つい言葉選びに慎重になってしまう。  落ち着かない様子の竜巳を見ていた輝夜の眉根が、ぎゅうと寄せられる。数秒の間の後、表情を曇らせた優男はちら、と竜巳を見やって、煙管を持っていない方の手で額を覆った。 「――まさか、覚えているとはな」  竜巳は勢いよく顔を上げた。 「俺の事を思い出したか」 「っ! 違うよ、ずっと与一のことは探してたんだ、でも、あんたがそうだとは思わなくて」  あきらめを滲ませた輝夜の声に、竜巳の視界がぶわりと滲んだ。目頭が熱く、鼻の付け根が痛い。 その様を見て驚いた輝夜が、ぎょっと目を剥いてから竜巳の頭を撫でた。 「ああ、そうだ、そうだとも。俺が与一だ。与一は母に貰った名だ。忍になる時に捨てた」 「なんで今まで教えてくれなかったんだ……? 俺、いつもそうかもしれないって思いながら、でも与一がひどいこと言うわけないって思って。俺が竜巳だって、昔一緒に遊んだ竜巳だって気づいてたんだろ? だからあそこで俺を殺さなかったんだろ?」 「ああこら、落ち着け」  しゃくりあげながらまくし立てる竜巳の背を宥めるように撫でる。滲んだ視界の中の輝夜はどこか困ったような顔をしていた。 「……お前の中の与一を壊したくなかった」 「え……」  竜巳は赤くなった目を何度も瞬(しばた)いた。

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