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第26話

「お前の中の与一は、可憐でおとなしく、心優しい兄のような存在であったことだろう。それが今やどうだ、何の躊躇いもなく人を殺す、鬼などと呼ばれるような男になってしまった。……お前に幻滅されたくなかった」  まるで拗ねたように輝夜が言う。  男の独白に、竜巳は唖然としたあと、はっと我に返った。 「そ、そんな事言ったら、俺だってそうだ。人も殺したし、盗みだってした。よ、与一の可愛がってた子供の頃とは、全然違う。……あんたは俺を嫌うのか」 「そんなわけがあるか」  輝夜が慌てたように反論し、手拭いで涙を拭ってくる。竜巳は思わず笑った。 「俺だって同じだよ」  一瞬硬直した輝夜が、ふっ、と不敵な笑みを浮かべた。そのまま竜巳の腕を引き寄せ、自らの腕の中に閉じ込める。 「そうか。しかし、もう一生会えまいと思っていたお前とこうして暮らすことになるとはな。お前には分かるまい。お前とあの日、山賊どもの根城で出会った時の喜びを。怪我を治して飛び立ってしまうのだとばかり思っていたお前が、この場に留まることを口にした時の俺の嬉しさを」 「……そんなに嬉しかったのか」 「ああ。頬が緩んでしまいそうになるのをこらえるのに必死だった。本当に、二度とまみえることなど無いと思っていたからな」  おとなしく身を委ねると、ふわりと輝夜の香りが鼻腔をくすぐった。されるがまま髪を、背中をあやすように撫でられる。輝夜の胸は力強くて、まるで守られているようだと思った。 「お前を見てすぐに”あの“竜巳”だと分かった。お前は変わらず、以前と――あの楽しかった日々と同じ、真っ直ぐな目をしていた。……俺を見る時に憧憬の感情が入り混じっているのも変わらない。――髪は随分ぱさついてしまったがな」 「!」  竜巳はぶわっと毛を逆立てて頬を紅葉にした。彼を与一だと思わずに口にした数々の話を思い出したのだ。確か、髪の話もした。あの頃からこの男は竜巳の髪を弄るのが好きだった。  その甘い感傷に流されそうになりながら、竜巳は我に返ってここに来てからのぶんの悪態をつく。 「……でもあんた、やっぱりちょっと変わったよな。俺に凄く甘いところもあるけど、さっきみたいに投げ飛ばしたり、きつくあたったりする」  少しぶすくれながら言うと、輝夜はぐっと口ごもった。 「……最初は、そんなつもりなどなかった」  竜巳を引きはがして向き直ると、輝夜はぶつぶつとばつが悪そうにつぶやいた。蜜色の瞳が少しだけ赤みを帯びている。

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