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第32話
どうしたものだろうか。竜巳は天井を見つめたまま一人、思案した。その隣に寝そべった男は、頬杖をついて頭を支えたままうとうとと微睡んでいる。もう片方の手は、下ろされた竜巳の髪に絡んだままだ。囲炉裏は消え、部屋の中は一面の闇が広がっていた。
あの日、輝夜が与一であったと発覚して以来、彼は目に見えて竜巳を甘やかすようになった。いや、構いたがるようになった、と言った方が正しいかもしれない。抱き潰された後、竜巳が目を覚ましたのは深夜の事で、輝夜が外から帰って来たところだった。その日から「寒いだろう」と共寝を強いるようになった。とはいえ毎度身体を暴かれるわけではなく、機嫌よさげに抱きしめられたまま眠りに落ちることが殆どである。彼は寝つきがいいようだったが、最近ではこうして竜巳が眠るのを見守ってから眠ろうとしていることが多かった。
「……まだ、眠れないのか」
「あ、ああ」
「そうか」
輝夜とは逆の方向を向くよう寝返りを打つと、後ろからぎゅうと抱き寄せられた。身体が密着して、竜巳は己の心臓が跳ね上がるのを感じた。
竜巳が眠れないのは詰まる所、この男の影響である。
彼に触れられるたび、早鐘を打つ心臓を止めることがかなわなくなり、顔に熱が集中する。竜巳は未知の感情に翻弄(ほんろう)されていた。
再び竜巳が逃げ出すことを危惧しているのかもしれない。しかし、眠っている彼を起こすまいとそっと毛皮から抜け出して厠に向かったのを、毎度起き上がり不機嫌そうな顔で待つような男だ。気付かぬわけがない。
「ん……こどもの体は、温(ぬく)いな……」
「……餓鬼扱いすんなよ」
竜巳がそう反抗すると、輝夜は抱き込んだ小さな身体の背中に顔を埋めて、ふふ、と小さく笑った。
「もうすぐだな」
「何が?」
「お前が佐平を殺すのが、だ」
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