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第33話

 竜巳は押し黙った。  最近、輝夜相手にも何とか立ち回れるようになった。侍を相手にするまでもうじきだ、というのが輝夜の言葉である。  佐平と対峙できるのは嬉しい。  だがそれよりも、この家を離れなくてはならないことが寂しかった。一度別れてしまえば、もう二度とこの男と逢い見えることもないのだろうと思うと、胸が張り裂けそうになる。竜巳はその感情の名に気づき始めていた。 「……ひとつ、聞いてはくれまいか」 「なんだ?」 「この瞳の色に、疑問を抱いたことはないか」 「……疑問?」  くぐもった声が「そうだ」と告げる。 「他の者は黒を宿す。俺とお前の異形のこの色――なぜか、と考えたことは?」 「……あまり、ないけど」  父母からは生まれつきであったと語っていた。外(と)つ国には青や緑色の目を持つ者がいる、という話も聞いたことがある。たまたま何か間違いが起きたのだろうと、そう思っていた。――思わなければ、無意味に自分を責めることになるのが嫌だった、というのもある。 それから幾許(いくばく)かの間の後、「それでは」と輝夜が言い募った。 「……なぜ俺とお前が同じ瞳を持っているか、については」 「んー……同じやつがいるんだなって、嬉しかったけど」  疑問を抱いたことはなかった。そう口にすると、輝夜は大きく嘆息した。 「そうか。ならばいい」  その直後、すうすうと規則的な息が聞こえてくる。一瞬のうちにすっかり眠ってしまったらしい。振り回されてばかりの竜巳は嘆息するほかない。  背後に感じる暖かな人の温もりを意識しながらも、竜巳はゆるゆると微睡んだ後、ゆっくりと穏やかな眠りに落ちて行った。

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