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第39話

誰だって夫婦のふりをしろなんて言われれば困るだろう。むくむくと負けん気が膨れ上がって、風早の手を振り解いた。 どんな顔であんな言葉を放ったのだったか。おそるおそる輝夜の顔を見れば、普段と変わらぬ涼しい顔をした彼と視線が交差した。 「なんだ、問題があるか」 「問題しかないだろ!」 「……不満はあるだろうが、まあいうことを聞け。夫婦でいる方が怪しまれなければ、おそらく盗賊であったお前にも気づかぬだろう」  竜巳ははっと息を呑んだ。  村人は当然の事、商人も集う祭りの席である。盗賊であった頃に襲った者や、逃げ延びて竜巳の顔を知る者が居ないとなぜ言い切れるだろう。その上、この男は城下に行くと言っていた。それが佐平のいる土地であったらどうだろう。  幸いにも竜巳はまだ幼い。背丈は少し高いが、それも輝夜といれば薄れる。  竜巳は項垂れた。 「よし、次は髪だな。せっかく長いんだ、きっちり結わえねばなあ」 「まだやるのか……⁉」 「おう、それから輝夜が紅を買ってきた。せっかくだから引いてやれ」 「紅……!」  己の姿を知る術のない竜巳は、女のようになった己を想像してぞっとした。  風早から離れ、三人に向かって弁明を試みる。 「俺なんかが着飾ったところでそんなに変わらないだろ……!」 「いやいや、なかなか似合ってるって、……本当だぞ、なあ輝夜」 「ああ、悪くない。見立てがいいとはいえ、想像以上だ」 「だからそういうのいいって……!」

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