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第41話

「今日のお前はお竜だ。いいな」 「お竜…………」  太陽が中天を過ぎた頃、輝夜一行はその村に着いた。  がやがやとした通りを、はぐれぬよう輝夜についていく。甘味に細工にと目を奪われる中、彼の背を追うのは至難の業であった。後をついてきてくれる風早と伊織がいなければ、一人、人波に呑まれ迷子になっていたかもしれない。  輝夜は薬になるいくつかの薬草を買い、竜巳に饅頭を買った。 「美味いか」 「美味い!」  快活に笑うその様は少しばかり男児の面影が残っていたが、同時に成長の途中にある子供の危うい色気を醸(かも)している。輝夜はその襟巻の下に隠れたうなじに噛みつきたくなるのを堪え、思わず「お前の方が美味そうだ」と呟いて伊織に笑われていた。すべて竜巳の知る由もないことである。 「なあ輝夜、もう終わりか? ……って伊織たちは?」 「土産でも見繕(みつくろ)いに行ったのだろう。お前にも何か買ってやろうか」 「い、いいよ! また簪だの紅だの寄越す気だろ! いらない!」  輝夜が簪屋の前で立ち止り、竜巳の袖を引いた。店先には若い娘の好みそうな帯どめや簪が並んでいる。その一本を手に取り、輝夜は竜巳を手招いた。 「どれ、挿してやろう」 「いいって……! 男に簪なんて、どうかしてるだろ。どうせならもっと可愛い女にしろよ」 「馬鹿言え、俺はお前だから贈るのだ」 「……!」  竜巳は顔を真っ赤にして輝夜の手を振り払う。距離を取ってきっと睨み付けてやると、輝夜は飄々とした様子で小首を傾げていた。 「ば、馬鹿じゃないのか……!」 「そう嫌がる必要もあるまい。今のお前は俺の妻だぞ」 「そ、それが馬鹿じゃないのかって言ってるんだ!」  本当にこの男は頭がいかれている。花畑でも広がっているんじゃなかろうか。  竜巳は頬に紅葉を散らしたまま、居たたまれなくなって叫んだ。  もっと器量の良くて、年若い娘ならば、輝夜とも似合いだっただろう。  そう考えるだけで、熱くなった顔が冷えていくのが分かった。

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