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第43話

 祭りの一件から半月足らず、竜巳は相変わらず修行と銘打ち扱(しご)かれ続けていた。霜のみならず雪の降り積もるこの時期、鍛練はより厳しいものとなった。凍える身を縮ませながらを古い、家の周りを走り回る。ひどく甘やかすようになった輝夜も鍛練を怠ることを許しはしなかった。輝夜は冷え込むようになってから一層強く竜巳を指導するようになった。それに比例して竜巳の腕も上がり殴り飛ばされることも少なくなっている。 竜巳の成長――それは輝夜との別れが着実に近づいていることを意味していた。 「っせい!」  木刀を手にした竜巳が、全身にあざをこさえながら師である男に斬りかかった。口の端に滲んだ血の跡が修行の厳しさを物語る。渾身の一撃を受け止められ、互いの刃を間に睨み合った。 「っくそ!」 「だいぶ動きが鈍ってきたぞ。そらそらもっと動け」  それを受け流した輝夜が、顔に一撃を食らわせようと構えを取る。それに気づくと同時に身体を低く伏せ、その胴体に突進した。 「させるか!」 「ぐおっ」  どさり、と勢いよく二人共に床に倒れ込む。ぜえぜえと上に乗った竜巳が息を上げると、背中を打ち付けた輝夜は息を詰めてはは、と笑った。 「これはしてやられたな」  降参だ、と笑うのを見て、竜巳はぱあと顔を輝かせた。 「小柄な体を動かすのが上手くなった。上出来だ」 「やった! ……?」  胸がこそばゆい。何がおかしいのかまだくすくすと笑う男から退こうとして、竜巳は違和感を覚えた。眉を顰(ひそ)めると、輝夜が訝って笑うのを止めた。 「どうした」 「なあ、あんた……やっぱり痩せてないか?」 「!」  疑問を口にした一瞬、男の体が強張った。 「前はもっと胸板が厚かったし、腕力だって強くて」  言いつのった竜巳の額がぺしっと叩かれる。

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