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第46話
「俺が? 無理無理。竜巳が色仕掛けでもした方が早いって」
「いろっ……⁉ あんたらはまったく、いつもそんなことばっか考えて……!」
「うははは、そりゃあ男だからな」
揶揄(からか)われていることに腹立ちながら、大根を諦め茶を出す支度をする。先日漬けておいた沢庵を石の下から取り出して薄く切る。しそを混ぜたそれは母が好んで作ったものだった。それを笹の葉に乗せて持っていくと、伊織は喜々として茶と沢庵を受け取ってかじりついた。かり、と小気味いい音が響き渡る。上出来だなと判断を下すと、竜巳も筵の上に腰を下ろした。
「はぁ~美味いな~。竜巳がいなくなったらこの漬物も食えなくなるのか……」
あからさまにしょぼくれたのを見て、竜巳は思わず苦笑した。
「別にだれが作ったって変わんないだろ?」
「変わるね。うちの嫁のなんざいちいち塩っ辛くって食えたもんじゃねえ。お前の爪の垢でも煎じてやりてえよ」
「……そうか。……あんたにも世話になったな。礼を言うよ」
近づく別れを噛み締めると、無意識のうちに眉尻が下がった。
「俺は別に何もしてねえよ。礼なら輝夜に言ってやんな、きっと飛び上がって喜ぶぞ」
「あいつはそんな性質じゃない」
くすりと笑うと、途端、真面目な顔になった伊織が腕を組んで考え込み始めた。その瞳はじいっと竜巳に向けられ、どこか言いづらそうに口をまごつかせている。竜巳は首を傾げて彼が語るのを待った。
「……結局よお、輝夜に惚れてるんだろ?」
「はっ⁉」
竜巳は即座に顔を赤く染め、びくりと飛び上がった。
「そ、そんなわけないだろ!」
伊織が呆れたような顔をして沢庵をほおばる。居心地が悪くなり、竜巳はそわそわと視線を彷徨(さまよ)わせた。
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