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第47話

「素直じゃねえなあ。……まあ、そうだよな。出ていけって言われたら素直に出て行っちまう程度の情だもんなあ」  血も涙も無いのは師弟一緒か、と呟かれ、竜巳はいささかむっとした。 「あいつは俺の古い友人で、師匠だよ。それ以外の何物でもない」 「へえ~、嫁さんがいなくて安心したり、女扱いされて妙に喜んでたりしたのに?」 「し、してない!」  竜巳は何度も首を横に振った。  本当に、ない。無いと言ったらないのだ。あの男に惚れるなど、あり得るわけがない。あってはならない。  竜巳はそう何度も言い聞かせ、自分の心を――殺してきた。  ――殺してきたのだ。 「……い、おい、竜巳? 聞いてるか」  目の前で伊織がひらひらと手を振る。竜巳は異様な速度で脈打つ心音を聞きながら、はっと我に返った。 「輝夜を慕っている……?」 まるで心にかけられていた錠がこじ開けられたかのような衝撃だった。  それも師として男としてではなく、一人の人として、心の底から。  つまりは好いているのだ。 伊織の言う通り惚れている――――。  竜巳はひどく混乱した。長い間ふたをしてきた感情がせきを切って溢れてくる。それはどれも甘いような疼くような甘美で初々しいものばかりであった。  例えばその節くれだった手でよくやったと頭を撫でられたとき。  ふとした瞬間にこちらを向いて穏やかに微笑んだとき。  彼の腕の中で眠りについたとき。  彼に抱かれた時。  鬱陶しさや嫌悪感に勝ったのは、彼を愛しいと思う感情ではなかったか。  竜巳はぶわり、と全身からじわりと滲む汗を止めることが出来なかった。

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