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第48話

「おい竜巳、平気か」 「あ、ああ」  動揺を悟られぬよう取り繕って向き直ると、輝夜はだから、と言い聞かせるように話を再開した。 「お前、輝夜に何をどこまで聞いたんだ」 「何を、どこまで?」 「ああ。この里と俺たちの事はだいたい知ってるんだろ? 他に何を聞いた?」  竜巳は早鐘を打つ心臓を押さえて思案した。彼は何を語っただろうかと思い浮かべてみたものの、彼が与一であったこと程度しか思い当たる節が無い。  彼は最後まで郷の掟に忠実だった。結局、己を真正面から見つめてくれたことなどなかったのだ。  思いつめたような面持ちの竜巳に、伊織も一緒になって難しい顔をした。 「例えば……あいつがなんでこんな辺鄙な場所に住んでるのか、とか」 「それなら聞いた。餓鬼の頃に罪を犯したって」 「そうだ。何をしたかは知ってるか?」 竜巳は逡巡した後、ゆっくりと首を横に振った。伊織がそうか、と悩まし気に眉根を寄せた。それから竜巳をじっと見つめ、いいか、と話を続ける。 「あいつはお前にいくつもの隠し事をしてる」 「隠し事?」  訝し気に眉根を寄せると、伊織は重々しく頷いた。 「ああ。お前が知らなくちゃならねえ事ばかりだ。俺が口にすべきことじゃない。だからあいつを問い詰めろ」  剣呑な雰囲気を纏った言葉に竜巳は小首を傾げた。 「それで話してくれるのか、あの頑固者が」 「分からねえ。でも、お前には知る義務があることばかりだ」  伊織は身を乗り出し、必死の形相で竜巳に詰め寄ると同時にその肩を掴んで揺さぶった。  そして、言った。 「あいつは、お前の為にこの里を滅ぼしかけた」  竜巳は目を丸くして、息を呑んだ。

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