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第51話

「お前と会った帰り、どこぞの間者に後をつけられた。気付いていないわけではなかったが、お前に会うのをやめられずにいたらこの里が見つかってしまった。捉えて見ればまだまだひよっこ、気づかぬはずはない、と俺は裏切者扱いよ。もともとこの家はは里と外を繋ぐ番のようなことを仕事にしていたからな。それも、俺が原因で親父の代で取りやめとなったが」 「……そう、か……?」 「なぜ怪訝な顔をする」  竜巳は輝夜の言葉に違和感を覚えた。伊織は「お前の為に里を滅ぼしかけた」と言っていた。しかし今の話だと彼の語るように単なる「過ち」の話でしかない輝夜が自分に甘いのを重々自覚した今では、弟分のために何かしでかしたのではないか、と容易に想像できてしまうのだ。 「お前が気にするようなことはない。飯を食って寝ろ」 「…………」  輝夜の態度が話は終いだ、と物語る。野菜と肉を味噌で似た汁物をよそう輝夜をじいっと見やれば、強引に話を切る姿勢に違和感を覚えた。まるで、他に言いたくないことを隠しているような――そんな感覚を覚えながら、竜巳はおずおずと口を開いた。 「な、なあ輝夜、お願いごとが、あるんだ」  ――焦っていたのだと思う。 「は?」  緩慢な動作で顔を上げた輝夜の顔に――表情が無かった。竜巳は震えた。 「この期に及んで願いとは。お前はどこまでも図々しいやつだな」 「……そうかもしれないな」  未だ輝夜はじいっとこちらを見ている。黄色く濁ったその眼で。

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