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第53話

先ほどまで眉をひそめていた輝夜が突如、はっと目を見開いた。竜巳の瞳が妙に潤んでいることに気づいたようだ。 「違うよ輝夜、俺はあったかい飯が食いたくてここにいるんじゃない」 「他に何がある」 「あんたがいる」  即答すれば、輝夜が目を丸くした。 「俺が?」 「うん。あんたがいるから、俺はここに居たい。嫁さんが来るまででいい。仕事はなんだってする、これまで以上にこき使ってくれて構わないから」 「……なんだってそんなに必死になるんだ。俺はお前の言う通りお前に”ひどいこと”しかしないだろう」 「……ちがう、それでも、俺は」  自嘲するように言った輝夜に、何度も首を横に振った。この血も涙も無い男には己の感情など理解できないのかもしれない。理解しろとは言わない。受け入れてほしかった。  溢れて爆発しかける感情を抑え、震える声を奮い立たせて、端正に整った男の顔を見上げる。 赤みがかっていたその瞳は真紅に染まり切っていて、思わず息を呑む。その異様な様相さえ絵になる男だと思った。 「あんたの傍に居たいからだ。俺は、あんたのことが――」 「言うな!」  口にするが早いか――輝夜は竜巳の口を手のひらで覆い、そのまま勢いよく押し倒した。幾分か細くなった腕が竜巳の右手を床に縫いとめる。

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