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第60話
こんなに情でがんじがらめにされた身体で、できるわけがなかった。
涙を浮かべて拒絶を続けると、輝夜は「そうか」とだけ呟いて、酷薄な笑みを浮かべた。
「役立たずが」
唸るように言って起き上がると、輝夜は竜巳に背を向ける。その背中はひどく竜巳を拒んでいて悲しくなった。
「何の為にいやいやその固く骨ばった身体を抱いたと思っているのやら」
「は?」
「これでようやっと死ねると思えば、肝心のお前は何か思い違いをして俺を憎み殺そうとはしない。興ざめだ」
竜巳は愕然として、息を呑んだ。
「自分が愛されていると思ったか。可愛がられていると? 残念ながら女には困っていなくてな。ふん、俺に好んで男を抱く趣味はない。柔らかい女の肌の方がいいに決まっているだろう」
この男の強がりと嘘を、竜巳は知っていた。
自分に向けられた言葉の刃が、輝夜自身を傷つけているように見えた。
「鬼であるお前であれば、俺を殺せるだろうと思うたのだが――そちらも大したことはなかったようだ」
「そんな――、あんた、また何を言って」
輝夜がゆっくりと振り返る。その表情には怒りや呆れの色が滲んでいた。
「お前に憎まれ、殺されるために、仕方なくお前のような者を抱いたというのに」
「っ」
すべて演技だったのだろうか。共に過ごした日々も幻であったというのだろうか。情熱的に身体を求めてきたのも、ふとした時に見せた笑顔も――自分は利用されているに過ぎなかったのだろうか。
――違う。
どれだけひどい扱いを受けようと、それでも竜巳は、この弱い男に負けたくなかった。
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