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第62話
「なあ、抱いてくれよ」
「……何を馬鹿な」
「最後なんだ、いいだろう。あんたの気持ちは分かったから、だから、思い出をくれ」
明日になったら、ちゃんと出ていくから。
竜巳がその首に両手を回すと、輝夜は竜巳を勢いよく押し倒した。
覆いかぶさってきた男と、視線が交差する。静かな息遣いが炎の爆ぜる音に混じり、時がゆっくりと流れて行く。
「……本当は、どうして、ガキの頃の俺を殺さなかったんだ」
それは何度めかの問いかけだったが、これまでと一線を画したものだった。
「――殺せなかった。それだけだ」
輝夜は呟くと同時に、竜巳の肩に縋りついて強く抱きしめた。その広い背に手を回す。やはり以前と比べるとひどくやせ細ってしまったように感じられた。
これで、最後だ。明日からは、別々の道を歩んでゆく。その道が今一度交差することは、おそらくないのだと、竜巳は直感していた。
最後の蜜月は、静かに過ぎ去っていった。
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