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第66話
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その人に慣れない猫のような仕草が、愛らしいと思った。
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「ここまででいいって、お前……」
家を発ってからは早かった。一刻ほどかけて山を下りると、城下近くの村に出る。街道を通れば歩いても二刻とかからずに城下まで行くことが出来る。
活気あふれた宿場町の入り口で、怪訝な顔をする伊織に向き直った竜巳が小さく頷いた。
「本当にいいよ。ここからは俺一人でも行ける。それに、怖い嫁さんと腹の餓鬼が家で待ってるんだろ、早く帰らないと叱られるんじゃないのか」
「そりゃあまあ返す言葉もねえけど、飯に困らねえぐらいの金子、あるのか?」
「――あ」
竜巳はしまった、と目を見開いて、わたわたと全身をはたいた。伊織がけらけらと笑った。
「はは、そういうわけだ。町までは面倒見てやるよ、輝夜に釘さされてるからよお」
「……あいつはなんて言ってた?」
「竜巳を佐平のところまで連れていけ、ってさ。そこからはお前次第だと。ああそういや、城下に着いたらどうやって探すのかは決めたのか?」
「そうだな……とりあえず、どこか、奉公先を探したいと思ってる。あんたの言う通り金もないし、こんな小僧を雇ってくれるような店があるかも分かんないけどさ」
「へえ、そりゃあ……長い戦いになりそうだなあ」
「どうなんだろう……ああ見えて町は狭いから、案外簡単に見つかるのかもしれないけど。どれだけ時間をかけてでも見つけてやるつもりでいる、それだけだ」
拳を握りしめて伊織を見上げると、彼は無言で破顔して竜巳の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「わ、やめろよ人前で!」
「おお、人気がなければいいのか?」
「良くない!」
伊織を振り払うと、竜巳は一人、足を踏み鳴らすようにして街の中へと歩き出した。
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