8 / 26

chapter 02 [perfume]

 何度も深い瞬きを繰り返し、ようやく目がなれたところで玄関ホールを見渡せば、外観と同じくらい広かった。それにどこからだろう、甘い香りがする……。  この匂いはいったい何だろう。花のようでもあるし、お砂糖のようでもある。甘い香りは鼻孔を通って頭の中に充満する。この匂いは麻痺させるような作用でもあるのだろうか。さっきまでたしかにあった恐怖が少しずつ萎んで消えていく。この匂いを嗅いでいたら、頭がぼんやりしてくるんだ。  まるで夢の中にいるような感覚――。  身体がほわほわして、なんだか気持ちがいいの。  僕は何をどうすればいいのかさえもわからなくなった頭のまま、大きな玄関ホールで立ち往生していると、誰かが火を灯したらしい。ずっと奥の方にある螺旋階段が少しずつ明るくなっていく。  それから、足音がコツコツとゆっくり近づいてきた。

ともだちにシェアしよう!