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夜と営み
ベビーベッドを置くと、ウィルクスの寝室はさらに狭くなった。
もともと、ダブルベッドを置く十分なスペースがないという理由で、ハイドとウィルクスの寝室は別々になっている。ウィルクスの寝室も元は客用寝室で、ハイドの寝室以上に狭い。それでも、読書好きのウィルクスが集めた本が収まる本棚の前に、ベビーベッドを置いた。中では産まれて三週間のハンナがすやすやと寝息を立てている。
深夜一時前。ウィルクスのベッドが軋んでいた。
「んっ、んふ、んっ、ふっ、んん……っ!」
必死で胸に抱いた枕を噛み、ウィルクスは暴力的な快楽に耐えていた。開いた両脚のあいだで、夫が荒々しく腰を前後させる。それが上下動に変わって、思わず中をきゅんきゅん締めた。ウィルクスの肉筒は豊かに収縮し、愛慕もあらわに肉棒にまとわりついて、逞しい竿をしゃぶっている。ハイドが下腹部に力を込めると、勃起したそれは亀が頭を上下させるように動いた。奥に突き刺し、激しく掘ると、ウィルクスは弓なりに反ってびくびく内腿を痙攣させた。そのはずみに枕が口から外れ、床に落ちる。
「うあ、うあ、ああっ……!」
ウィルクスは声を上げて絶頂に悶えた。中を擦られてとろとろと、蕩かされるようにドライでいかされるのも好きだったし、もっと奥深くを荒々しく掘られて、痛みと激しい絶頂を感じることも好きだった。今、彼は後者の責め方で責められて、こむら返りが起こりそうなほど足の裏を反らせて乱れている。
「っひ、ひ、ひんんっ!」
大きな声が漏れる。しかし、声を出してはいけない、娘が起きてしまう。なけなしの理性でそう思って強く手の甲を噛むが、ハイドに手首をつかまれ、手を口から剥がされてしまう。唾液が垂れ、ウィルクスの頬を涙がぼろぼろと流れた。
「シドっ、ふか、深いっ、おく、おくっ」
ウィルクスは悲鳴を上げて背を反らせた。
娘を産んでから、ずっとこうだった。妊娠しているあいだ、ずっと深く繋がれなかったことの埋め合わせをするように、ハイドは毎晩ウィルクスを求めてくる。挿入は深かった。ピストンは深く激しく、壁を壊すように、なにかに到達しなければという強迫観念を帯びているかのようだった。
「うあ、シド、だめ、ばかになちゃうぅ……っ!」
悲鳴を上げ、ウィルクスは肉筒を締めつける。受け入れている場所がゆるゆるになって、壊れてしまう。もうこれ以上入ってきて欲しくないから締めつけたのだが、ハイドは屈しなかった。ピストンがゆっくりになり、さらに突きあげは重く、射程は長くなる。ウィルクスはがくがく震えて陥落した。彼はゆっくりしたピストンが好きだった。念入りにじっくり、射精しそうでできないぎりぎりのラインでねちっこく愛されることが好きだったのだ。
「シ、シドっ、そこ、いいっ……」
ウィルクスは夫が腰を振るのに合わせて胸を上下させ、だらしなく弛緩した顔で唾液をだらだら垂らした。舌をはみ出させて、雌犬のようにうっとり鳴く。二人のあいだではウィルクスの牡が愛液を垂らしながらぷるぷる揺れていた。
「っあ……ち、ちんぽ、いい、そこ、掘って、ちんぽ、いいっ……」
恥ずかしくてたまらないのに卑猥な言葉でねだり、全身がびくびく跳ねるほど感じる。ハイドのピストンはさらに深く、逞しくなっていく。
がちがちに膨張し、そそり勃つ肉棒を最奥まで強く押しこまれ、余韻を残してゆっくり引かれ、ウィルクスの目の奥はちかちかする。夫の一物が口から出そうに錯覚して、口を押さえてひんひん泣いた。体を海老のように痙攣させ、欲情でどろりとした目が上を向く。
ハイドは腰を振り、ウィルクスに覆いかぶさって、垂れた彼の舌に舌を絡めた。呼吸を奪われ、ウィルクスは自分が死んだと思った。全身を痙攣させながらよがり、ハイドの生ぬるい舌を必死になって吸う。くちゅくちゅいう濡れた音が頭の中に鳴り響き、口の中が蕩けて気が狂いそうになる。ピストンの乾いた音と粘膜が擦れる音で意識が朦朧とした。ウィルクスはうっとりして、されるがままにハイドのキスを許し、両脚を開いて夫を受け入れ、体内を掻き回す一物に全身を蕩けさせた。
ハイドのものが痙攣しはじめる。彼が濡れた音を立てて唇を離すと、ウィルクスはその逞しい体を両腕で抱いた。
「シド、くださいっ、せーし、奥に……っ」
脚を腰に絡めてねだる妻に、ハイドは腰を前後させながらふと笑みを浮かべる。
「……今日は、だめ。また、今度ね」
優しくささやいてウィルクスの目元を舐め、肉棒を奥に突き立てた。ウィルクスの体がぶるっと跳ねる。
「い゛っちゃ……!」
そう叫んで、きゅんきゅんと中を締めた。
そのとき、ベビーベッドから泣き声が聞こえた。ぐずるようなその声はだんだん大きく、激しくなっていく。
ハイドはコンドームの中に精を吐き出した。溜まっていたため、射精は長かった。そのあいだもウィルクスはずっと痙攣している。
吐き出し終わると、ハイドはウィルクスの体の中から、いまだ昂ぶっている自身をずるりと引き抜いた。コンドームを着けた裸のまま、ベビーベッドに歩み寄る。娘を腕に抱き、汗と精液のにおいを漂わせたまま彼女を優しくあやした。
「よしよし。お母さんは今、大変なんだよ。ちょっと待っててね、いい子だ」
ハンナは次第におとなしくなった。目を閉じ、ふたたびうつらうつらとしはじめる。ハイドは娘を抱いて、体を揺らした。やがてハンナはふたたび眠りに落ち、深い寝息をもらしはじめた。
ハイドは娘をベビーベッドに寝かせると、パートナーのほうを振り向いた。
ウィルクスは顔を背け、全身を震えさせながら泣いていた。ハイドが歩み寄ると、ウィルクスは彼から顔を背けたまま嗚咽を殺していた。
「お、おれ……っ」シーツをぎゅっと握り、喉仏が震えている。「む、娘の前で、こ、こんな……っ」
大丈夫だよ、とハイドはささやいた。汗で貼りついたウィルクスの短い前髪を指で梳き、あやすようにささやく。
「お父さんとお母さんは愛しあってるんだ。それを教えてるんだよ」
ウィルクスは手の甲を両目に押し当てて涙を流した。ハイドはちらりと彼の腹を見る。吐き出した精液が暗がりの中で、鈍く光って見えた。
ハイドは彼の隣に横たわった。ウィルクスの頭を抱き、優しく髪を撫でる。彼はしゃくりあげていたが、ハイドの逞しい胸に顔を埋めた。腰を抱き、呆然とした顔でつぶやいた。
「おれ、ときどき、思うんです……あなたに、お、お仕置きされてるんじゃないかって……」
そんなことないよ、とハイドは言った。なぜきみをお仕置きする必要があるんだ?
わからないとウィルクスは言った。彼は愛され疲れて、やがて静かな寝息をたてはじめた。
娘そっくりなんだから。ハイドはそう思った。妻の頭を抱いて、彼も目を閉じた。
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