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息子と花のせんせ

「蓮、パパ、何て言った?」 年のせいか、日頃の運動不足が足腰にダイレクトにくる。僅かな距離なのに、息が切れる 「蓮!」 息子は、物事に夢中になると、回りの声は、一切耳に入らなくなる。自分だけの世界に入り込んでしまう。 「蓮くんは、僕の姿を見付けて、追いかけてきたんです。」 首にタオルを巻き、カーキ色のつなぎを着た男性がゆっくりと立ち上がった。 二十代後半くらいだろうか。 すっきりとした印象の好青年だ。 額に滲む汗を、タオルで拭く仕草が男らしいを引き立てる。 「おはようございます。佐田さん」 いつもの様に、にっこりと微笑み掛けられ、 おはようございます、僕も軽く頭を下げた。 そう、彼こそ、『花のせんせ』こと、ここの用務員の、迎さんだ。 俺が配達を担当している、小中学校の中では、彼が一番若い。 ふと、校庭に目を遣ると、十人ほどの子供たちが、キャーーキャーーと騒ぎながら、鉄棒の練習をしていた。 小規模小ならではの、のどかな光景に自然と顔が綻ぶ。 すっかり、葉桜になった木々の間を、さわさわと音をたて、風が流れていく。 空は、どこまでも青く透き通っていてーー。 「せんせ、せんせ」 蓮が、迎さんの裾を引っ張る。 「ん⁉どうした⁉」 しゃがみこんで、息子の顔を覗き込む迎さん。 その眼差しはとても温かい。

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