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美男子に化けた幼馴染みとの再会
その日の夕方ーー。
もうじき、家に着くというのに、パラパラと、曇天の空から急に雨が降りだした。
蓮を脇に抱え、走り始めると、まもなく、ザァーーと、雨の勢いが増し、家に着く頃には、蓮も俺も、全身びしょ濡れになっていた。
体に服がベタベタと張り付くのが嫌なのか、気持ち悪いのか、蓮はずっと泣きっぱなしだ。
「風呂に行って、体を拭こう」
宥めながら、蓮を浴室に連れていくと、灯りがついていて、水の音がしていた。
(誰⁉)
お袋は台所にいたし、親父は、出掛けていて留守のはず。
(なら、ここにいるのは誰なんだ?)
そんな事を考えているうち、ガラッと、浴室のドアが開いて、濡れた前髪を指で掻き上げながら、裸体の男が姿を現した。
均等のとれた逞しく、引き締まった体は一切無駄がない。
「そんなに見詰めないでくれ。恥ずかしいだろ?」
くすくすと笑いながら発する低い声。
憎たらしい程、顔が整っているこの男。
数年ぶりに会う彼は、くそ真面目な黒眼鏡の優等生と揶揄された昔と違い、野性味溢れる大人の色香を漂わせる、美男子に劇的な変化を遂げていた。
同い年のはずなのに・・・。
「いやぁ、昔と全然違うから、ビックリした」
ふと下に目がいった。
クラスの男子の中でも、断トツのデカさを誇っていた彼のモノ。
淡い茂みの中にあっても、存在感は半端じゃなく。
「だから、そんなに見るなよ」
照れ笑いする表情も昔と変わらない。
そう彼こそが、幼馴染みの、宮尾葵。
まさにその人で。
「っていうか、なんで、人んちの風呂に入ってんだ?」
「帰り、たまたまお前の母親と一緒になって、真生に用事がある、そう言ったら、家で待つ様に言われて。途中で雨に降られて、シャワーを借りた。それよりも、蓮の事、風呂入れたら?」
「なんで、息子の名前を⁉」
「お前の母親から聞いた」
お袋の事だから、余計な事までペラペラ喋っているんだろうな。
「お前んち、二軒隣だろうが‼」
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが。
「パパ、れん、さむい」
「あっ、ごめん」
思いがけない幼馴染みとの再会に、すっかり息子の存在を忘れていた。
つくづくダメな父親だ。
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