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蓮の心 親は知らず

夕方。幼稚園に蓮を迎えに行くといつもよりテンションが高くて。 「パパ、はなのセンセ、センセ!!」 かなり興奮し、一方的に話をするばかりで、俺の話しに耳を貸す所ではない。 「パパ、センセ、かっこうよかった」 「センセ、すごいんだよ」 蓮が、左の手をグーにして、何かを切る仕草を見せてくれた。 どうやら、迎さんが、左利きであることを、息子なりに、教えてくれているみたいだ。 「言わなかったからな、驚いただろう?」 「うん!!れん、びっくりしたよ!!」 目がキラキラと輝いてる。 「じゃあ帰ろうか!?明日は、パパと一緒にパン屋さんに行こうな」 「うん!!おかえりのじゅんびしてくるね」 バタバタと、ロッカーに駆けていく蓮。 代りに、延長保育担当の先生が顔を出してくれた。 「蓮君、今日はずっとあの調子で・・・クラスのお友達に、パパのお友達すごいね!!格好いいね!!って褒められて、テンションが上がってしまって・・・」 「そうなんですか」 迎さん、一体何したんだろう!? 「カレー作り、一手に引き受けてくれて、暑い中、最後まで外で調理をしてくれたんです。後片付けまで、全部手伝って貰って助かりました。ご飯の後も、、子供達とかくれんぼうをしたり、鬼ごっこしたりして遊んでくれて・・・」 「もう、その話しはいいから」 後ろから、怒気を孕んだ葵の声がして、振り返るなり、襟首を掴まれた。 「少し、顔を貸せ」 怖いくらい低い声で、見ると彼の目は完全に座っていた。 「すみません、あとで迎えに来ます」 葵に引っ張られ、誰もいない、薄暗い保育室にそのまま連れ込まれた。 「葵、何怒っているんだ!?」 「お前が悪いんだろ。そんなに、俺の事が嫌いか?」 「はぁ、なんだそれ」 「俺を頼ろうとしないし、甘えようとしない。幼馴染みの俺より、出会ったばかりの用務員の方がいいわけ!?まぁ、あっちの方が若いし、格好いいし・・・」 「葵、違うんだって!間違ったんだ。お前に頼もうと電話したはずが、迎さんに掛けてしまって・・・ごめん」 「ふぅ~ん、電話交換する仲なんだ。蓮は口実か」 正直に言えば笑って許してくれると思った。 でも、目の前にいる葵はいつもの彼とは明らかに違う。 「真生・・・」 不意に名前を呼ばれ、真摯な眼差しを向けられーー。 何故だろう。心が疼くのは・・・。 その時、携帯の着信音が静まり返る保育室に響き渡った。 「ごめん」葵が、上着の内ポケットから、スマートフォンを取り出した。 「分りました。では、月曜日の一時に伺います。いいえ、こちらこそお世話になっております」 電話は直ぐに切れ、葵が人呼吸吐く。 「あのな真生。俺の両親、田舎に移住して、今いないんだ。あのバカでかい家に一人でいるにも寂しくて。週に一日か二日、蓮を連れて泊まりに来ないか?あまり上手じゃないが、手料理を振る舞ってやるから」 「今晩・・・どうかな!?」 「ごめん、明日も仕事で、朝七時出勤なんだ」 「そっか、パン屋さん朝早いもんな。蓮はどうするんだ?預けるのか?俺が見てようか?」 「社長のお孫さんたちがいるから、大丈夫だ。あっちは小学生だけど、結構面倒見が良くて。有難う、葵。気を遣ってくれて」 他愛ない会話をするうち、葵は、普段通りの彼に戻っていた。 「日曜日、もし、泊まりに来れるなら電話をくれ。ごめんな、蓮が待っているのに・・・」 「葵!?」 幼馴染みの勘、というやつか。 「悩み事があるなら聞いてやる。でも、恋愛相談は無理だから」 「分っているよ、そんな事。奥さんに逃げられたお前なんかに相談しない」 悪戯っぽい笑みを浮かべる葵。 いつもの彼だ。 良かった、機嫌が直って・・・。 「真生、うちの鍵を渡しておく」 何で!?って顔をしたら笑われた。 「蓮がすぐ行きたいって、駄々をした時の為だよ。変な勘ぐりするな」 「分ってるよ。じゃあ、後で連絡する」 葵に別れを告げ急いで蓮の所に戻った。

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