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彼の涙と 蓮の笑顔と 蟻の大群と
「パパ、おしごとおわり?まだ?」
さっきから何十回も同じ事を聞いてくる蓮。
「何か楽しい事でもあるの?」
社長の奥さんが息子に聞くと、ニコニコした笑顔で大きく頷いた。
「仕事が終わったら、公園に連れていく約束をしているんです」
「あらそうなの。それならもう上がっても大丈夫よ。ちょうどお昼だし。蓮くん、パパの言う事を聞くのよ」
「すみません、奥さん」
頭を下げ急いで帰る用意をした。
「パパ、お花のセンセに電話して来るから、待っているんだよ」
「はぁ~い!!」
おっ、珍しい。蓮が返事した。
迎さんに電話すると、ここまで迎えに来てくれるみたいで、このまま、駐車場で待つことに。
再就職するまで、ペーパードライバーだった俺。
都会(まち)は交通網が充実していて、車を使わなくても良かったから、運転免許証だけは取り敢えず更新していた。
自分の車はないから、会社のを借りたり、親父の借りたり。
数分後ーー。
ベージュ色の軽自動車が、駐車場に入って来た。
「佐田さん、すみません、お待たせして」
運転手席の窓が開いて、迎さんが顔を出した。
人懐っこいその笑顔に、自然と俺も蓮も笑顔になる。
「今日はお世話になります」
声を掛け、蓮と一緒に後部座席に乗り込むと、すぐに車が走り出した。
「狭くてすみません。軽の方が小回りがきくので」
迎さんが、ミラー越しにちらっと見て来た。
「蓮くん、公園に着いたら、お昼にしようね。お弁当を作って来たから、少し我慢してね」
「は~~い!」
今度も右手を上げ、ちゃんと返事が出来た。エライ!!
「パパ、おべんとうだって」
蓮の目が燦々と輝いている。
「迎さん、色々、気を遣って頂いてすみません」
「大丈夫ですよ。僕、家事全般は得意なので」
彼と、何気に目が合い、何だか気恥ずかしくて目を逸らした。
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