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彼の涙と、蓮の笑顔と、蟻の大群と

「嫌だな、嬉し泣きですよ。僕、こう見えて人見知りが激しくて、なかなか友達が出来ないので」 「そんなふうには見えないけど」 「真生、その・・・僕と、友達になってくれますか?」 いいよ、頷くと、涼太スゲェ嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せてくれた。 「パパ!!パパ!!」 蓮が、急に、驚いたような声をあげた。 「どうした!?」 「ありさん!!」 「蟻!?」 蓮が指を差す方向に目を遣ると、重箱の周りに蟻の大群が集まっていた。 「だめぇ!これは、れんの!!」 もしかしたら何百といるかもしれない黒い塊に息子は動じない。 「一旦、片付けようね」 涼太が慣れた手つきで片付けを始めた。 蓮の口の回りを拭いたり、手を拭いてくれたりと、甲斐甲斐しく世話を焼くその姿は、男にしておくにはもったいないくらいで。 「真生も、蓮くんと一緒なんだから」 見惚れていると、彼の手が伸びて来て、俺の口元をハンカチでそっと拭いてくれた。 「りょ、涼太!」 なんでこうも狼狽える俺がいるんだろうか!? 心音が喧しい。 「パパ、おかおがまっかだよ」 「何でもないです」 こういうのには目敏い蓮。 「蓮くん、シートを畳むから、お手伝いをお願いしてもいい?」 「はぁ~い」 蓮はすっと立ち上がると、涼太の手伝いを始めた。 「センセ、ありさんのおうち」 座っていた所に、無数の小さな穴が空いてて、そこから、沢山の蟻が出入りしていた。 「ごめんね、いたかったねぇ」 しゃがみこみ、蟻に話し掛ける蓮。 「先生も気が付かなかった。ごめんね」 涼太まで一緒に謝っているし。 「センセ、あっちいく」 「うん、行こうか。真生はここにいていいよ」 涼太は、蓮に腕を引っ張られ、芝生の向こう側にある砂場と、アスレチック広場へ向かって行った。 陽が暮れるまで、蟻の行列を眺め、小さなじゃぶじゃぶ池でオタマジャクシの卵を初めて見て、歓声を上げたりと、初めて尽くしの一日となった。蓮の傍らには、常に、笑顔の涼太がいて、嫌な顔一つせず、息子に付き合ってくれた。 お陰で、帰る頃には、『センセ』から、『りょうにいに』に呼び方が変わっていた。 「パパ、かえりたくない」 「暗くなる前に帰らないと。明日もまた来ような」 「れん、おうちにかえりたくない。りょうにいにのおうちにいきたい」 蓮が突拍子も無い事を急に言い出した。

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