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はじめてのおとまり
「涼太、頼むから、聞かなかった事にしてくれ」
遠慮する事を知らない息子の戯言。冗談だと思って、スルーして欲しかったのに。
「蓮くん、泊まっていいよ。明日、またここに来ようね」
「うん!!」
息子の目が爛々と輝く。
「あっ、で、でも・・・着替えとかないし」
「蓮くんのは真生持ってたよね?真生のは、僕ので良かったら使って。足りないものは、コンビニで買えばいいし」
「やっぱり迷惑を掛けると悪いから」
「僕たち、友達でしょう?」
涼太にそう言われ、それ以上は何も言い返す事が出来なかった。
「蓮くん、夜、何食べたい?」
「ごはん、のりまきまき」
「ん!?」
涼太が、通訳してくれとばかりに、視線を送ってきた。
「手巻き寿司の事。海苔にご飯乗せて・・・蓮、酢飯の匂いがダメだから、普通のご飯ね、それにひきわり納豆を巻いて食べるのが、好きなんだ」
「そうなんだ。じゃあ、買い物をして帰ろうか」
「うん!!」
蓮は涼太に左手を握って貰い、スキップしながら、駐車場へと続く小道を進んでいく。
「パパも」
息子に右手を差し出され、握り返すと、
「れんと、パパと、りょうにいにらぶらぶ」
また訳の分からない事を口走り始めた。
「涼太、スルーしてくれ」
「可愛いじゃないですか?それに、こうしていると本当の家族みたい。真生がパパで、僕がママで」
「涼太!?」
「冗談ですよ」
笑って誤魔化してはいたものの、目は真剣そのもので。
真摯なその眼差しに心が疼く。
葵の時と同じだ。
ドキドキと心音が喧しい。
これってもしかして、カミさんに出会った時の気持ちに似てる?
いや、まさか・・・。
相手は男だぞ。ありえないだろうが。
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