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幸せなひととき

「蓮くん連れて、ちょっとコンビニに行ってくる。何か食べたいものある?」 「いや、別に」 「それなら、寝てていいよ」 涼太は、蓮の手を繋ぎ、笑顔で出かけて行った。 恋人と過ごす甘い時間は、儚いくらいあっという間で・・・。 息子が帰って来るまで父親の顔に戻らないと。 「パパ、おかえり~」 30分後ーー。 蓮が、歌を口ずさみながら帰ってきた。 かなり上機嫌の様子だ。 早速、涼太と台所に立って、朝食作りのお手伝い。 笑顔で涼太を見上げる蓮と、そんな息子を優しく見守る涼太。まるで、本当の親子の様で、何とも微笑ましい光景だ。 「パパ、りょうにいにとふく、いっしょ!らぶらぶ!」 涼太は、似たような服しか持っていなくて、必然的にそうなる。 体はあちこち痛いもの、いつまでも寝ている訳にもいかない。「大丈夫?」涼太が何度か声を掛けてくれた。その何気ない気遣いが、嬉しくて、彼への思いが一層深まっていく。 こんな俺に幻滅していないか? それと同時に、そんな不安も過る訳で。 「真生、もしかして、口に合わない?」 「そんな事ないよ」 ぼおっとして、涼太に心配を掛けてしまった。 「いっつも、朝はパンだから、ご飯も、焼き魚も、卵焼きも、味噌汁も、全部美味しいよ」 「良かった」 蓮は、骨のある魚が苦手だ。 涼太は、そんな息子の為、せっせと骨を取り除き、身をほぐして、ご飯の上に乗せてくれた。 「おいちい!」 満面の笑みを浮かべ、口一杯に、ご飯を頬張る蓮。 朝からこんなにもりもりと食べるのを見るのは久し振りで。 俺まで嬉しくなってきた。 片付けを済ませ、昨日の約束通り、今日も城址公園の芝生の上で、蟻の行列を観察したり、ジャブジャブ池で、オタマジャクシの卵を探したりと、蓮は、強い日差しに負けじと元気いっぱいだ。 やはりというべきか、それが蓮の特性なんだから仕方ないのだが、アスレチックで歓声を上げて遊ぶ他の子供たちには一切興味を示そうとはしなかった。 「それが蓮くんの特性だもの」 涼太は、無理に、一緒に遊ばせるような事はしなかった。蓮にとって、ストレスになるだけ。 それを彼はちゃんと知っていた。 「なぁ、涼太」 気になったから聞いてみた。 「身内に、蓮みたいな子供がいるのかなって・・・ごめんな・・・変な事聞いて」 「ううん、いずれ話す事だから・・・」 涼太が一呼吸おいて、話してくれたのは、年の離れた兄が、蓮と同じ、軽度の発達障害を抱えていた。という事だった。

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