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幸せなひととき

「蓮くんは、一人っ子だから、色んな人にいっぱい構って貰えるけど、僕には、両親に遊んで貰った記憶が無くて・・・妹の面倒をみたり、母が、兄に手が掛かっていたから、母の代わりに家事炊事したり。でも、一度も褒められたことはない。『やって当たり前』だったから・・・」 涼太の目から一筋の涙が零れ落ちた。 「ほんと、昨日から泣いてばかりで、嫌になる」 「そんなことないよ」 その涙を、手でそっと拭ってやると、 「真生の前だと、不思議と素直になれる」 少しだけ笑顔が戻った。 お昼は、涼太特製のサンドイッチ。ハムとレタスと胡瓜。卵などの定番のものから、パンとウィンナーを海苔でくるくる巻いた変わり種まで。 涼太は、文句なしに料理が上手い。 「りょうにいに、おいち」 蓮は、もぐもぐとサンドイッチを頬張りご機嫌だ。 そんな息子の隣に座る涼太もまた楽しそうだ。 ーーん!? ポケットに入れっぱなしの携帯が鳴ったような気がして取り出すと、知らない番号の着信履歴が残っていた。 「悪い、電話して来る。すまないが、蓮を頼む」 涼太に両手を合わせ、頭を下げて、少し離れた所でリダイヤルを押すと、懐かしい幼馴染み達のが電話越しに聞こえてきた。 「真生ちゃん、お・ひ・さ!葵に番号を聞いたんだ。おれ、誰だか分かる?」 俺を”ちゃん”付けで呼ぶのは一人しかいない。 この口調も相変わらずだ。 「相原だろう?」 『正解』 「で、お前の周りで騒いでんの、佐野兄弟だろう?」 佐野兄弟は、双子で、共にハスキーボイス。身長も、声もでかいから、とにかく目立つ存在だった。 二人共、ハンドボール部のエースで、女子にかなりモテていた。 『真生ちゃんさぁ、水臭いんだよ。こっちに戻っているなら、そう言ってよ。近所なんだし』 「ごめんな。落ち着いたら、連絡をしようとは思っていたんだ。で、何の用だ?」 『今、佐野兄弟の家で呑んでいるんだよ。真生ちゃんも来たら?』 「お前ら、こんな真っ昼間から・・・・いてぇ!」 ドンといきなり背中に突進してきたのがいた。 てっきり蓮かと思ったら、そのまま、ぎゅっーと抱き締められ、涼太だと気が付いた。

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