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幸せなひととき
『何、もしかして、取り込み中か?』
「アホか。蓮だよ!息子!連れて行ったらすぐ飽きて、迷惑を掛けるから。悪いな」
『なら、しゃあないな、またな』
ようやく電話が切れた。
「帰るの?」
今にも泣き出しそうな声が背中越しに聞こえてきた。
「今は、涼太と蓮、三人での時間を大切にしたい」
「・・・・ありがとう、真生」
服を握り締めるその指は微かに震えていた。
「心配すんなって」
わざと明るく振る舞った。
涼太のヤツ、もしかして、焼きもちを妬いてくれてるのか?
何だか、嬉しい。
「だから、痛いんだって!」
ダダダ―ーッ!と、今度は蓮が、俺と涼太の間に突っ込んできた。
顔がぶすくってる。一丁前にも、焼きもちを妬いているみたいだ。
「りょうにいには、れんの!」
「はい、はい」
やれやれだ。先が思いやられる。
「蓮くん、ご飯食べようか?」
涼太が、蓮の手を繋ぎ戻って行った。
「真生もだよ。ごはん食べよう」
「あぁ」
良かった。涼太に笑顔が戻って。
その後、夕方まで涼太と過ごし、自宅まで送って貰った。
「真生、学校では、今まで通り、迎さんで。涼太なんて呼ばれたら、僕、嬉しすぎて、きっと、真生に抱き付くと思うから」
別れ際、そんな可愛い事を涼太に言われ、俺も、今まで通り、佐田さんで呼んでくれと頼んだ。
俺も彼と同じ。嬉しすぎて、何しでかすか分かんないから。
「また、来週・・・」
「あぁ、なるべく毎日電話するよ」
「うん」
まだまだ一緒に居たい気持ちを必死で抑え、彼を見送った。
蓮も、車が見えなくなるまで、笑顔で手を振り続けていた。
「パパ、たのしかったね」
「また、行こうな」
「うん!」
蓮と手を繋ぎ、一日振りのわが家へ帰った。
玄関を開けた瞬間、脱ぎ捨てられた靴の多さに驚いた。
俺が留守の間、親父でも倒れたか?
いやぁ、まさか・・・。
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