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幼馴染みの急変

「蓮、取り敢えず着替えしてこようか?汗いっぱいかいたし」 「ヤダ」 ぶんぶんと首を振られた。 「れん、えんちぉうセンセといたい」 「パパっておいで、頼むから~」 蓮は、ぷいっと顔を逸らすと、葵の首根っこにしがみついた。 その時、葵と目が合った。 冷たく、険しい目付きで睨み付けられた。 表情も、視線もピンと張り詰めていた。 息子に見せる優しい表情とは、正反対だ。 「真生、お前には聞いていない。蓮に聞いているんだ」 怒鳴り声が返ってきた。 蓮も、相原たちも、一様に驚き、みな動きが止まった。 「蓮には怒ってないよ。園長先生に教えてくれるかな?どこにお出掛けして来たのかな?」 息子には、あくまで、優しい先生の顔と、穏やかな声ーー。 「えっとぉ・・・ひろいこうえんでいっぱいあそんできたの」 身振り手振り葵に伝える蓮。 「そう。楽しかった?」 「うん!!ありさんと、おたまじゃくし、いっぱぁーーいみてきた」 「そっかぁ。今度、園長先生も連れて行ってくれる!?」 「うん!!」 息子よ。お願いだから、このまま涼太の名前を出さないでくれ・・・。 焦りばかりが募る。 「で、蓮、パパの友達って・・・誰かな?お名前言えるかな?」 そんな猫撫で声で・・・。 意地悪な質問をするか。普通。 葵って、絶対、多重人格だ。 「うん!!りょうにいにだよ」 満面の笑みを浮かべ、大好きな名前を口にする蓮。 「すっごく、おりょうりがじょうずなんだ。いっぱいあそんできたんだ。おとまりもしてきたよ」 得意げな顔で、涼太の事を、葵に教えた。 みるみる、彼の表情が、更に険しくなっていく。 ーー終わった・・・。 「真生、電話だぞ。出ないのか?」 葵に言われて、初めて着信音に気が付いた。 ポケットからスマホを取り出し、画面に目を遣ると、涼太からだった。 何とも、タイミングが悪い。 無視した方がいいんだろうな、この状況なら尚更。 でも、相手は涼太だ。 大事な恋人からの電話・・・出ない訳にはいかない。 「葵、ちょっと待って」 携帯を耳に当てながら、リビングを出て、近くの洗面所に駆け込んだ。

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