45 / 58
後悔と後ろめたさと
なかなか寝付けなくて、ベランダに出て、しゃがみこみ、涼太がくれた花の苗をぼんやりと眺めていた。
火照った体に、夜明け前の澄んだ風が心地いい。
「風邪ひくぞ」
葵が顔を出した。
「なんか、寝れないんだ」
「そっか」
葵が隣に腰を下ろし、肩をそっと抱き寄せてくれた。
「それ、ヒースの花の苗だよ」
「ヒース!?初めて聞いた」
「あまりにも愛に奔放な女と、彼女に捨てられた元彼の復讐の凄まじさ――有名な小説に出てくる、まさに、恋する花。彼に貰ったのか?」
「あぁ」
涼太は、この花に叶わぬ自分の恋心を重ねたのだろうか。
「なぁ、彼の事を教えてくれ」
「教えてやってもいいが、焼きもち妬かないか?」
「それは分らない」
苦笑いを浮かべる彼に、涼太との出会いから、両想いになるまでの事を話してやった。
「蓮に、パパは二人もいらないか。彼みたいなママが必要なのかもな~。俺は、苦手だな、甲斐甲斐しく面倒をみるの。ガサツだし・・・。でも、真生と蓮を手放すのだけはやだな」
そう言って、耳朶を甘噛みされた。
「葵!!」
「もう、幼馴染みには戻れない。分るよな?」
苦しい胸の内を吐き出し、抱き締めるその腕に更に力が入る。
「あぁ」
葵の言う通りだ。
もう、後戻りは出来ない。
「愛しているよ」
頬に彼の口付けが降る。
俺は、すぐに答える事が出来なかった。
ともだちにシェアしよう!