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後悔と後ろめたさと

なかなか寝付けなくて、ベランダに出て、しゃがみこみ、涼太がくれた花の苗をぼんやりと眺めていた。 火照った体に、夜明け前の澄んだ風が心地いい。 「風邪ひくぞ」 葵が顔を出した。 「なんか、寝れないんだ」 「そっか」 葵が隣に腰を下ろし、肩をそっと抱き寄せてくれた。 「それ、ヒースの花の苗だよ」 「ヒース!?初めて聞いた」 「あまりにも愛に奔放な女と、彼女に捨てられた元彼の復讐の凄まじさ――有名な小説に出てくる、まさに、恋する花。彼に貰ったのか?」 「あぁ」 涼太は、この花に叶わぬ自分の恋心を重ねたのだろうか。 「なぁ、彼の事を教えてくれ」 「教えてやってもいいが、焼きもち妬かないか?」 「それは分らない」 苦笑いを浮かべる彼に、涼太との出会いから、両想いになるまでの事を話してやった。 「蓮に、パパは二人もいらないか。彼みたいなママが必要なのかもな~。俺は、苦手だな、甲斐甲斐しく面倒をみるの。ガサツだし・・・。でも、真生と蓮を手放すのだけはやだな」 そう言って、耳朶を甘噛みされた。 「葵!!」 「もう、幼馴染みには戻れない。分るよな?」 苦しい胸の内を吐き出し、抱き締めるその腕に更に力が入る。 「あぁ」 葵の言う通りだ。 もう、後戻りは出来ない。 「愛しているよ」 頬に彼の口付けが降る。 俺は、すぐに答える事が出来なかった。

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