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涼太の家族

何事も最初が肝心だからーーと、ちゃんとした身なりで、涼太のご両親に会おうと思っていたら、「普段着でいいよ」と彼。 途中で花束を買い求め、連れて行かれたのは、城址公園の手前にある、みろくし東山霊園。 「涼太、ここって・・・」 戸惑いながら、車を下りた俺を出迎えてくれたのは、妹の未紗さん。 「お久しぶりです、佐田さん。貴方の事、やっとお義兄さんって呼ぶことが出来て嬉しいです」 「いや、そんな・・・」 「兄の事、宜しくお願いします」 頭を深々と下げられ、俺も慌てて頭を下げた。 「片道10分は歩くようになるから、その間、蓮くんを未紗に見てて貰おうかなって思って」 「そうなんだ。じゃぁ、すみませんが、息子の事お願いします」 未紗さんに蓮を頼み、本人には、「未紗お姉さんのいう事をちゃんと聞くんだよ」と言い聞かせた。 「は~い!!」 返事はしたもの、なかなか一歩を踏み出せずにいる蓮に、未紗さんは笑顔で話し掛けてくれた。 「お姉ちゃんね、蟻さん大好きなんだ。一緒に探そうか!?」 蟻と聞いて、蓮の目が輝いた。 「みさおねえさん、こっち、こっち」 自分から、彼女の手を握り引っ張って行った。 「涼太が教えてくれたのか?」 「ううん。未紗も、蓮くんくらいの時、蟻が好きだったから――唯一の友達だったから、何か通じるものがあったんじゃないかな」 「そっか。なるほど」 「真生、僕たちも行こう」 「あぁ」 涼太が差し出してくれた手を握り締め、もう片方の手で花束を抱き締め、彼と並んで、石畳の坂を下りていった。 緑の木々と、色とりどりの花に囲まれた、共同墓苑『みどりのみたま』 その前で、涼太の足が止まった。 花束を二人で墓前に飾り、静かに手を合わせた。 「両親と、兄が亡くなって、今年でちょうど17年ーー」 落ち着いた語り口で、彼が話し始めたのは、壮絶な過去だった。

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