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第8話 この手を離さない。
あの時、壱の手を離してしまった事を零は幾度となく後悔していた。
逢いたくて止まなかった愛しい人が今自分の目の前に居る。
状況が掴めないまま困惑しきりの零だったが、壱に再び逢えた喜びに打ち震えた。
「コホンッ」
三十三が咳払いをし、口を開いた。
「零、壱、見つめ合うのは2人きりの時にしてもらえるか?」
『あ。すみません。』
2人が照れながら謝っていると、遠くから六が猛スピードで此方に向かって走ってきた。
「壱だ!逢いたかったよ〜〜!!」
言うが早いか六は壱に抱きついた。
「壱に逢えるの心待ちにしてたよ〜。」
「久しぶり。それと三十三さんから聞いたよ。六のお陰だよ。ありがとう。」
「全然だよ。俺が壱の傍に居たかったんだ!」
「ふふっ。六は相変わらず面白いね。」
「え〜っ。俺本気なんだけど。」
2人の恋人の様なやり取りを見て零は心中穏やかではなかった。
『さっきから何の話をしているんだ?』
零が2人を引き離し、六に尋ねた。
「先輩〜。なんか鬼みたいな顔してますよ。壱に逢えて嬉しくないんですか?」
六はにやにやした表情を浮かべて零に言った。
『嬉しいに決まってる。』
零の一言で壱の顔がたちまち紅く染まった。
「ちぇっ。壱が死神になれば俺にもチャンスが有るかなって思ったのに。。」
『お前にそんなチャンスは絶対に訪れない。壱は俺の大切な人だ。』
「あっ!今、先輩サラッと愛の告白しましたよね。三十三さ〜ん。職場恋愛禁止にしましょうよ〜。」
六が猫撫で声で三十三に擦り寄った。
三十三は苦笑しながら零に話し掛けた。
「零。去年壱が亡くなった時俺が彼を天国に送ったのを覚えてるか?」
『はい。』
「あの時、壱は願い事を一つも叶えてもらっていないから、お前達が一緒に居られる様に神様に頼んで欲しい。六にそう頼まれたんだよ。」
『え。。じゃあ。』
「ああ。壱が死神になって再びお前に逢えたのは六のお陰だ。」
その話を聞き終え、零は六に心から感謝した。
『六。ありがとうな。』
「2人の辛そうな顔みたら俺まで悲しくなっちゃったからさ。それだけ。あっ。でも俺、壱の事諦めた訳じゃないからね!」
『諦めろ。俺は壱を二度と手離す気は無い。』
「三十三さ〜ん!先輩が冷たい!」
『三十三さん。俺達明日までお休み頂いて良いですか?』
「構わないが。何故だ?」
『これから壱を俺の家に連れて帰って抱く予定なんで。』
「そうか。余り無茶はするなよ。」
三十三は笑いながら言った。
「ひぇえ〜っ!そんなんダメ〜!!」
六の叫びを無視し零は壱を抱き上げ、自宅へと帰って行った。
三十三は半泣き状態の六を優しく抱き寄せる。
「六、諦めろ。お前が付け入る隙は無いぞ。」
「三十三さ〜ん。」
三十三は六の頭を優しく撫でながら密かに口角を上げた。
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