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 でもさ、志村と妹さんはかわいそうだけど、はっきり言って涼太はしょうがないよね。  父親からも母親からも愛されてたけど、ゲイであることをカミングアウトして家から叩き出されたからって勝手にグレてさ、あの学園で京一と出会うまで何人も男をとっかえひっかえして泣かせてたっていうんだ(しかも、学園の外でもロクデナシやってたし)。そんでもって周りの連中と一緒になってあのクソ野郎を持ち上げて、まんまとその手中に落ちるとか、馬鹿でしょ。  おまけにいつの間にか勝手に俺の恋人になったつもりでいたし。一方的に、あいつに別れの言葉を告げるとか、命知らずなやつ。「俺はだれかひとりのものになるつもりはないし、あいつを放りだしたら絶対痛い目に遭うよ」って忠告したのに……。  うさんくさい笑顔とうわっぺらの優しさ、毒みたいに魅力的な甘い言葉。  なんで涼太の周りの連中はあいつの本性を見抜けなかったのか本当謎! 「因果応報」、「自業自得」、「自己責任」。この三つが涼太にはお似合いだよ。まあ、これって俺にも当てはまっちゃうし、おっきいブーメランで返ってきちゃうんだけどね。 「他の連中は?」 「生徒会メンバーや涼太さんの親衛隊のメンバーの中にも売り飛ばされたり、自殺に追い込まれたり、殺されたり、人生をめちゃくちゃにされて散々なことになってる人がいるよ。確実に逃げきったのは風紀委員長と風紀顧問。それから警察の子どもとあの不良の周りかな」 「有名大企業に勤めている富豪の子どもや警視庁刑事部の警部殿の子ども、その関係者に手を出すと、厄介だから出さなかったわけか。あの野郎、小賢しい真似ばっかりしやがって」  あー、マジ無理。胸くそ悪い。絶対あいつ子どもだけを確実に狙ってるでしょ。なんか知らないけど、あの学園って親から見捨てられたり、虐待されてたり、利用されてたりする子どもが多かったんだよね。  だから、あのクソ野郎みたいなやつが犯罪行為を行っても多分親は被害届を出さないし、なんなら行方不明になったことを隠ぺいする手伝いでもしてそうだ。これさマスコミや警察にばれたりしたらヤバいんじゃない。めちゃくちゃ叩かれる可能性・大なのに、そんだけこの事実を表に出さない自信があるってこと?   計画性なんて言葉が、あいつの頭の中にあるとは到底思えないけど。  衝動的に涼太の周りの連中を片っ端から制裁してるみたいだし、部下や父親から見放されて自滅してくれないかな。 「ねえ。なんで、あの方が異常だってわかってて涼太さんに手を出したの。そんなことしなければ、今まで通りの生活を送れたはずだよ。僕が注意したのに、どうして聞いてくれなかったの」 「んー、なんとなくさ。涼太を見てて、こいつは自分と同じ親に受け入れられなかった人間だって、ビビビッときたんだよね」 「なに、それ……」 「なんていうのかな。あいつとなら、傷の舐め合いしながらでも、幸せになれるかなってそんな気がしたの! でも、まあ、残念ながら全部俺の勘違いでしかなかったんだけどね」 「――だったら、僕だって……」 「ジャック? どうしたの?」  子どもが泣いてしまう前のように、くしゃりと彼は顔を歪ませた。学園にいた時は、いつだって冷静沈着、ポーカーフェイスで表情を崩すことなんてなかったのに。  そんな表情見せられたら――なんか心配になるよ。でも、俺は縛られているから、お前の体に触れて慰めることもできないんだよね。 「っ……なんでもない。悪いけど、少し外の空気を吸ってくるよ。すぐ戻って来る。あいつらには、君に手を出さないよう指示してあるから安心して。なにかあったら扉の外にいるやつに声かけてね」  そう言って彼は扉を開けて出て行ってしまった。  人は見た目に寄らないなんて言葉、今まで一度も信じたことなかったけど……まさか、人畜無害そうな顔した権兵衛が実はマフィアのボス(京一)の部下で、こんな風に俺を拉致してみたり、拳銃持ってたり、人間(ひと)殺しをするんだから驚きだよ。  きっと学園にいた連中もこの事実を知ったら、目玉が飛び出るくらいにびっくらこくだろうな。  あいつに従っているぐらいなんだから、どう考えても犯罪者の中でも異常な部類であろうことは容易に想像がつく。  なのに、このまま彼と引き離されて知りもしない人間にひどいことをされる。そんな未来がもうすぐ訪れることの方が嫌なんだ。  それなら、いっそ――彼の手で一思いに殺してもらった方が、ずっと幸福なんじゃないかって思うぐらいに。  ※  流石に船を下りる時には目隠しやらなんやらをされたけど、やっぱり乱暴に扱われたりはしなかった。それに下りる直前からジャックが手を繋いでいてくれたからか、不思議とどこに連れていかれるんだろうという不安はなかった。  ずっと手を握って離さないでいてくれてる。きっとこれも、一種の拘束に違いないのに、すごく心強いと思ってしまうのは、なぜだろう? ※ 「ここは僕の知り合いが経営しているお店の事務所。君にはここで男娼として、お客相手に稼いでもらうよ。もちろん商品である君が傷付いたり、病気になったりしないように、こちらがわで管理するから」  目の前には洗練されたデザインの高層ビル。周りは見渡せば漢字とカタカナに平仮名、アルファベット表記されたビル群が乱立していて、アジア人がひしめきあっていて。  …………あれ?

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