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「静流……」
「ん、なあに?」
「室井先生ってさ、顔がちょいブサイクで髪の毛ふっさふさじゃないし、体格もムキムキじゃないけど、紳士的で親切で誰にでも誠実な人だから。恋人としてはうってつけだと思うよ」
俺は思わず口に含んでいたブラックコーヒーを吹き出し、そしてむせた。もったいないし、机の上が汚くなった。
全くなんてことしてくれるんだ! というか本当最近こいつどうしたの!? キャラ変わりすぎでしょ!!
「うわー、なにしてんの。きったないな。こんなところでふざけないでよ……」
「ふざけてない! 驚いたの。ジャックがいきなり変なこと言いだすから。俺と先生はあくまで接客するがわと客の関係。ビジネスライクな関係であって、そんなんじゃないから」
「でも先生はお前に本気で惚れてるよ。それなりにお金溜まったらあそこ辞めて、真剣に付き合うのもありなんじゃない? そういう子も結構いるみたいだし」
確かに先生と寝る時に愛の言葉囁かれたりするけど、いわゆる言葉の綾だと思ってた。ああ、でもあの人不器用だから嘘なんか吐けないよね。言われてみるとなんか色々と頷けるところがある。
「そうじゃなくて、なんでジャックは先生が俺に惚れてるって知ってるわけ? あの人と知り合いかなんかなの?」
「……うん、少しの間だけどお世話になったことがあるんだ」
はあ? なにそれ。まさかキスフレやカモフレだったとか言うんじゃないよね。先生が俺とヤルまで童貞だったしお付き合い&経験=0って言ってたの信じてるけど、そうゆう関係の人がいなかったとは聞いてない。
そう思ったら頭の中に、幸せそうにおしゃべりして楽しそうに遊園地でデートしてる二人の姿が浮かんできた。
うっわあ、なんかムカつくんだけど。ていうか先生がネコなわけないし(俺と最初にあった時に絶対タチ希望って言ってたから)、ジャックの方がネコになるよね。だとしたら先生にリードしてもらってたわけか。
先生に抱き締められてそっと触れるようなキスをされてた。ジャックは先生の腕の中で、幸せそうに愛らしく微笑みながら甘えたりしてたんだ。
白いカップの中に黒いコーヒーがまだ半分ほど残っていて湯気を立てている。
味はそれなりによかったし、いつもなら食べ物や飲み物を残したりしない。でも今はダメ。完璧に飲む気が失せた。
二人がイチャイチャしている姿を想像しただで、腸が煮えくりかえりそうになった。
「ごめん、先に帰る」
イスから立ち上がり、財布の中から適当にお札を出して机の上に叩き付ける。目をぱちくりさせてきょとんとしているジャックを置いて、大股歩きで外に出る。
どうして。なんで先生とジャックのことを想像したら、こんなに胸がズキズキ痛くて喉が絞めつけられてるみたいに息がし辛くなった。俺の中のなにかが嫌だって子どもがわめくみたいに叫んでる。
「ちょっと静流! いきなり、どうしたんだよ」
そんなの俺自身が知りたいよ。
俺の気持ちなんてなんも知らないくせに、追いかけてくるジャックにムシャクシャする。それでもここでちゃんと彼に真実を聞かないと、怒ってる意味がない。だから嫌々ながらも振り向いて声をかけてみた。
「お前と先生ってデートやキスをするような仲だったわけ?」
もし、「そうだよ」と笑顔で言われたら、どうしよう。汗がにじみ出る掌を握りしめながら答えを待つ。
「ちょっと何勘違いしてるの。……先生には何回か病院で診察してもらったのとたまたまゲイバーで会った時に『可愛い子と仲良くなりたい』ってヤケ酒して泣いてるのが、あまりにもかわいそうだったからメアド交換してお店紹介しただけだよ」
ジャックはさらりと俺の疑問を解決してくれた。
「……あっ、そうなの」
そうして沈黙が訪れた。
勝手に勘違いして腹立てたのすっごい恥ずかしすぎ。ていうか先生マジごめんね。昨日もあんなに助けてもらったのに、変なこと疑ったりして本当に申し訳ありませんって感じだわ。ていうか、ゲイバーに行ったりするって、ジャックも同性愛者? だったら俺、ガ●プラ作製に一日のほとんどを費やす芸能人にそっくりって言われたこともあるし、もしかしてこれは……恋人になれる可能性・大だったりする!?
「安心してよ。僕、別にゲイっていう訳じゃないし。ゲイバーに行ったのは仕事の関係でだから。先生の為にも弁明しておくけど、あの人は俺がマフィアに入ってることすら知らないまったくの一般人だよ。安心して」
その言葉を聞いて頭をガツンと鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ですよねー。ジャックはノンケなのか。うん、そっかー。じゃなきゃ学園で生活してる間に何かしらこう、ときめくような展開があったはずだよね。クラスでも、休み時間も、部屋も、寝る時も一緒だったのにジャックが俺に恋愛対象として好意を寄せたことなんて一度もなかったし。あ、でもゲイだったとしても俺みたいなやつタイプじゃないってなったら、そこで一巻の終わりじゃん……。
勝手にひとりで意気消沈しながら、雲ひとつない青空を見上げる。
あ、秋空きれい。俺の心も爽やかに心弾みたいわー。
ていうか……あれ? なんで友だちにこんなこと思うわけ。
顎に手をあてて胸のうちを考えてみるものの、思い当たるふしはなくもやもやとしたものが心の中で渦巻いただけだった。
「ちょっと……さっきから様子変だよ。百面相してるし、もう一回病院行って見てもらう? それとも離婚の話がそんなにショックだった?」
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