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『私はあの人もあいつも、この家の人間も絶対に許さない。あの人、私になんて言ったと思う? 『いいよな、女は好きな時に子どもを産めて』って言ったのよ。自分があの男に何回、何十回、何百回抱かれても子どもができないからって! 私が静流を孕むまでどれだけ辛かったか、あの子がお腹にいる間も誰も助けてくれなくて苦労したか、どんな思いで産んだのかを知りもしないくせに!!』  親父がお袋と式を挙げる前から男と付き合っているのを宇野原の家は知っていた。それでもただ一人の跡継ぎが同性の恋人()と家を出ていくぐらいなら、許嫁()と形だけの結婚をし跡継ぎを作ってもらおうと祖父は考えたんだ。  ついでに親父はお袋と結婚した後も、彼と交際をやめる兆しはなかった。  また、この不倫相手っていうのも大概嫌なやつで、親父がお袋と結婚して俺が生まれた時はお祝いにかこつけてわざわざ家まで来て、お袋に挑発行為をしたんだ。全くいい性格してるよ。 『それは……』 『私だって人生をともにしたいぐらい好きな人がいたわ。でも、許嫁がいるからと両親に強く反対されて諦めた。……あの人と結婚して男女の仲になれなくても恋人のような愛が芽生えなくても、夫婦として長年一緒にいればなにかしらの情が湧いて最期まで人生をともに過ごせると思ってた。なのにあの人は、最初から私なんて眼中にないんじゃない!』  親父はお袋にどこまでも残酷で冷酷だった。  彼女がどんなにコミュニケーションを試みようとしても無視。口答えすれば怒鳴り散らして「これだから女は嫌なんだ」と罵り始めて最悪手を出すんだ。もちろん夜の営みなんてものはなくて、お袋は新婚初夜の時から一人寝。俺が産まれたのも人工授精という科学技術のおかげだった。 『夫婦としての関係を築けるどころかゲイカップルの隠れ蓑として利用されるだなんて、堪ったものじゃないわ!! 私の恋を、夢を、人生を返してよ!!』  男と女が愛し合う行為をひとつもしなかった。いや、人間が人間に好意をもつ態度を示さなかったからお袋は腹の中に自分と親父の子がいること、自分が命を宿し、産まれてくる子どもの母になるという事実を受け入れられなかった。それは俺という存在が産まれた後も尾を引き、彼女を苦しめ続けた。 『あなた達だってこの子の面倒を見るのは業務外だからって、理屈を並べて煙たがってたじゃない。だから私の弟に預けたんじゃない! あなた達と私のどこが違うっていうのよ? 口答えしないでくださる』 『お母さん!!』  でもさ、そんなの五、六歳の子どもにわかるわけないじゃん。本能的に母親に愛されたいって思うものだしどんなに友だちを作っても、まだまだ親に甘えていたい時期。ましてや他の子どもが両親から愛される姿を見ていて、幼稚舎の先生達が母親の代わりのように子どもの面倒を見ている姿を知っていたら、愛されたいと願ってしまうに決まっている。  だから俺の行動はいつだってお袋の逆鱗に触れた。 『……本当、あなたってあの(ひと)にそっくり。私が産んだのにどうしてあの人に姿形が似たのかしら? デリカシーのなさまで瓜二つだなんて気持ち悪い。触らないで、ドレスに皺ができちゃうわ。それに悪いけどピーピーいつまでも泣いているような子ども、私、大っ嫌いなの』 『あの……ご、ごめんなさい。もう、悪いことはしません。だから、僕を嫌わないで……』 『やめてよ。これじゃあまるで、私があなたをいじめてるみたいじゃない!? 男のくせにみっともなく泣かないで! 女々しいわね!!』  小さかった俺はメイドに渡されたタオルを受け取りながら、お袋の一言一句に傷付きみっともなくカタカタと震える肩を爺やに抱いてもらっていた。  だけど、あの人(使用人)は自分が任された仕事をしなければ生活が成り立たなくなってしまうし、俺のお守りを親父やお袋に押し付けられていたんから大変だったはずだよ。それなのに、俺が泣いてたらあやしてくれたり、慰めてくれて、中等部に通ってる時も色々気にかけてくれた。  それも俺が叔父の側に付くようになってから、なくなっちゃったけど。 『……そこまで言うのならいいわ。あなたが宇野原の家をもっと栄えるように、有名にしてくれるなら愛してあげる。社交界に出て次期当主としてどんな人とでも仲良くなれるのなら、以前のようにあなたと会ってあげるわ。だから精々頑張ってね』 『待って! ちゃんと良い子にする。僕、頑張るから! ……だから、ねえ、行かないで。お母さん‼︎』  ――母親のこの言葉がすべての始まり。だけど、多分それはパーティで壁の花になっていないでちゃんと宇野原の子息として挨拶をしたり、周りの人間と交流をとる役割を努めなさいという意味だったんだと思う。  結局それを試みて実行に移しても、親父もお袋も俺のことなんて無関心だったけどね。お袋があの後会いに来てくれたことは一度もなかったし、あの約束は俺があまりにもウザかったから適当にその場を収めるために言っただけのものだった。  そして、叔父がその言葉を自分の欲望のために歪めた。  パーティの後は爺やもメイドも後片付けで忙しくて、俺の相手なんかしてる暇はない。もちろん、親父もお袋も忙しい。だから、ひとりにならないようにパーティのあった夜は必ず叔父の家へと連れていかれた。

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