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6月8日~出逢い②~

「俺、お兄さんみたいな見ず知らずの人にも迷惑かけちゃって……ごめんなさい」  紫苑の声が震える。気の弱い青年を演じるために、目尻に涙を浮かべた。嘘泣きも紫苑の得意分野だ。 「ちょ、えっ…どうしたの?」  急に泣き出した紫苑に動揺を隠せない男は、半歩下がって辺りを気にしだした。周囲に揉め事だと思われたくないのだろう。  しかし紫苑は、離れた距離よりもさらに男に近付いた。 「心配してくれてありがとうございます。俺、実は行く当てがなくて、ずっと寂しかったんです。だから、お兄さんみたいな優しい人に出逢えて、安心しちゃって……ごめんなさい」  紫苑は泣き笑いの表情で涙を拭ってみせる。 「行く当てがないって……君、まだ子供だろう?」 「十八です」 「……」  男は何かを考えこむように顎に指を当てるが、果たして正常な判断力が残っているのだろうか。うっすらと頬を紅潮させている男に、紫苑はさらに畳み掛けた。 「あの、もし……もし良かったらなんですけど、一晩だけ泊めてもらえませんか? こうして出逢えたのも、何かのご縁だと思うんです」 「…………」  これがとどめだ、と言わんばかりに紫苑は背伸びをして男の耳元に囁く。 「もちろんタダでとは言いませんよ。俺の身体でちゃあんとご奉仕しますから――」 「あぁもう分かった。分かったから。もう電車もなくなるし、一晩だけなら泊めてやる。だけど、そういうことは誰にでも軽率に言うもんじゃないぞ」 (――は? な、何言ってんだ、この人……)  自分で言うと自慢のように聞こえてしまうが、この色気を前にすれば女性にしか興味がなくても九十九パーセントの男が落ちてくれる。それなのにこの男は、紫苑のめいっぱいの誘惑に惚れるどころか心配するようなことを言うではないか。

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