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6月8日~出逢い③~
ともあれ男の懐に入れた以上、細かいことは気にする必要はない。
「ありがとうございます! お兄さんって、本当に優しいんですね」
男の腕に飛びつくと、彼が息を呑む気配がする。やはり自分の色仕掛けは効いていたのだ、と紫苑は心の中でガッツポーズをした。
「ほら、タクシーで帰るから付いておいで」
「はーいっ」
上機嫌な紫苑は、男の腕に抱きついたままタクシー通りへと向かう。
そこで一台のタクシーを止めて乗り込むと、男は何かを書いた紙を運転手に渡した。
「ここまでお願いします」
「かしこまりました」
初老の運転手はメモを受け取ると、静かに車を発進させた。
メモを渡すなんて、口で説明するのがよほど面倒なのだろうか。そう思って横に座る男を見ると、彼は腕を組んでシートに深く沈み込んでいた。
「ねむ……着いたら起こしてくれ」
「は、え? ちょ、おにーさん!?」
「………………」
「うそだろ……」
目の前にこんな美少年が居るのに寝ている奴なんか初めてだ。紫苑の驕 りは、紫苑自身にそんなことを思わせた。
今日は相手を見誤ったかもしれない。少し酔いすぎているようだ。
だが、それ以前に見ず知らずの人と密室にいながらこんな無防備な姿を見せるなんて、彼に警戒心はないのだろうか。もし紫苑がスリだったら、この隙に貴重品を持っていくことだって考えられるのに。
(――変な奴)
手持ち無沙汰になってしまったので、男の顔をじっくりと見つめてみる。
薄暗い車内を、夜の街に浮かぶネオンがうっすらと照らし出す。
(よく見るとカッコいいのに、何をこんなになるまで呑んでたんだろ)
清潔感のある髪型に、髭も生やさず眉毛も整えられた顔は、紫苑がこれまで身体の関係を結んだ男の中でも上位に入る端正さだ。眉間に皺が寄っていなければもっと良いのに。
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