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6月9日~一人①~

 紫苑の叫び声は、静かな部屋に虚しくこだまする。  失望のあまり仰いだ視線の先に時計があった。いつの間にか日付が変わっている。紫苑にとっては、まだ飯時に感じるくらい早い時間だ。夜はこれからだというのに熱を持った身体を放り出されて、紫苑は怒りのあまり本性を露わにしてしまう。 「おい起きろよクソオヤジ! 俺はまだ終わってねーんだよ!!」  肩を激しく揺すってみるが、全く起きる気配がない。それどころか揺さぶられた森岡の身体はバランスを崩してソファの上に横になり、ちょうど頭の下にあったクッションが良い枕代わりとなってしまった。この様子では朝まで起きないだろう。 (ふざけんなふざけんな! 先に寝るなんてあり得ねーだろッ)  憤りをぶつけようにも、当の本人は深い眠りの中だ。 (失敗した失敗した失敗した! もっとチャラくて誰とでもヤりそうな奴にしとけば良かった! 畜生!!)  自分だけスッキリして先に寝てしまうなんて酷すぎる。  だがこの熱を鎮めるには、身体を満たしてくれるものがないと…… 「はぁ……まさか、これを使うことになるなんてな」  紫苑はリュックの中からずっしりとした、黒いビニール袋を取り出した。  最悪の場合――相手が見つからなくてネットカフェに泊まることになった時のことを考えて、家を飛び出す直前に手当たり次第に持ってきたものがある。 (取りあえず、これでいっか)  ビニール袋の中に無造作に突っ込まれたものの中から適当に一つを選び出す。  それは、紫苑のお気に入りの()()だった。 (バイブもいいけど、やっぱ本物を突っ込んでもらう方が好きなんだよなぁ……)  紫苑の手には、十五センチ程のバイブレーションが握られている。  袋の中も、様々な形状のバイブや卵形のローター、アナルプラグと、普通の人はまず持ち歩かないものが詰まっていた。

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