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6月9日~一人③~
紫苑は肩で息をしながらぼんやりと虚空を見つめ、絶頂の余韻に浸っていた。
「はぁ…ぁ……んん」
近くに手を拭うものが見当たらなかったので、白濁にまみれた指を舐めて処理する。
自慰だと口寂しさも紛らわせないし、後で虚脱感に苛まれるから頻繁にはやらない。
今日が特別なだけだ。
(あー……シャワーでも借りるか)
いつまでもだらしない格好でいる訳にもいかない。紫苑は気怠い身体を起こすと、その場を軽く片付けて、勝手だが風呂場を拝借することにした。
頭の後ろで、ちょこんと結んでいた髪を解 く。汗ばんだ首筋に張り付く髪をかきあげながら廊下へ出た。
(あいつ、片付いてないって言ったの絶対嘘だな)
脱衣所に入っても、洗濯物は溜まっていないし、洗面所の棚も整頓されていた。予想していたより大分 几帳面な性格のようだ。
(まあいいや。さっさと入ろーっと)
紫苑は鼻歌交じりに風呂場へ踏み入った。
しばらくして、身体を綺麗にした紫苑は脱衣所にあったバスタオルを持ち出して部屋へと戻る。
替えの下着にハーフパンツ、Tシャツがあって良かった。逆に言えば、玩具と着替えと財布くらいしか持ってきていないのだが。
ともあれ、あの家には当分帰れないだろう。
喧嘩した兄は、紫苑のふしだらな性生活を知って失望していたし、こっぴどく叱られた。『お前なんか弟じゃない』と言われる始末だ。
だからあんな家には帰ってやらない。あんな兄貴は、大嫌いだ。
(アイツのこと思い出したらイライラしてきた。寝よう……)
森岡も起きないことだし、これ以上夜更かしをする意味がない。
だがソファーは彼が使っているし、さすがに床に寝るのも嫌だ。
結局、部屋の奥の寝室も使わせてもらうことにしてベッドに潜り込む。
(あいつ、明日なったらこのこと忘れちまうだろうなぁ)
あの様子では、酔っていた時の記憶が残っているのか怪しい。
「……何かあったらその時に考えれば良いか」
寝床を確保できた安心からか、次第に睡魔が襲ってきた。そういえば最近睡眠時間が減っていたので、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかもしれない。
紫苑は考えることを放棄して瞼を下ろす。
赤の他人のベッドにもかかわらず、眠りに就くまであまり長い時間はかからなかった。
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