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6月9日~大人と子供②~
「これ飲んだら早く着替えて帰りな」
「え~、俺まだあんたとセックスしてないんだけど」
「全く君は何を言ってるんだ……俺とヤりに来たのか?」
「そうだけど」
平然と答える紫苑に向かって、森岡はいっそう深い溜息をつく。
「あのなぁ、君みたいな子供が――」
「あ、そうだ。俺の名前、恵口紫苑っていうから。よろしく」
「恵口くんは――」
「紫苑でいいよ」
「話の腰を折るんじゃない……。紫苑くんは、こういうことして親御さんに何も言われないの?」
「なんにも。つかバレないようにしてたし、両親とは離れて暮らしてる。社会勉強と独り立ちの練習を兼ねて、大学通うために兄貴と一緒に住んでるんだ」
空になったグラスを差し出して『おかわり』と眼で訴えると、森岡は冷蔵庫から天然水の入ったペットボトルを取り出し、またそこに注いでくれた。相変わらず眉間に皺が寄ったままだが。
「そのお兄さんには外泊するって言ってきたの?」
「言ってないよ。兄貴に、俺が遊び歩いてるってバレて大喧嘩になって家出してきたから」
「それで泊まるところがないって言ってたのか」
「そゆこと」
森岡は、面倒なことに巻き込んでくれたな、と嘯 いて自分のグラスに残っていた水を飲み干した。
そしてグラスをやや乱暴に流し台に置くと、紫苑に背を向けてしまう。
「どこ行くの?」
「顔洗うんだよ。紫苑くんも外に出る準備しておいで。家まで送るから」
「……そんなに俺を帰らせたいのかよ」
頬を膨らませて、森岡には聞こえないように呟いた。
こうもあからさまに追い出されようとされると、未だ目的を果たせていない紫苑は意地でも居座ってやりたくなる。
「おいおっさん! あんたがセックスしてくれるまで、俺は帰らねーからな!」
「……紫苑くん、昨日はもっと可愛かったような気がするんだけど」
「あんなのキャラ作ってたに決まってんだろ。バーカ」
「さっきから気になってたんだけど、大人に対してそういう態度はないんじゃないか?」
「うっせぇ。昨日あんたが先に寝ちまうから俺は怒ってんの」
「そんなこと言われても……こっちだって疲れてたんだから仕方ないだろう」
フン、と鼻をならす紫苑に困り果てた様子の森岡は、紫苑の相手をするのを諦めたらしく、こちらを見向きもせずに洗面所へと向かっていった。
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